低解約率の裏にある「接点戦略」とコミュニティづくり
──非常に低い解約率を維持されているとのことですが、その実現に向けて社内でどのような施策を実施していますか。
勤怠管理というプロダクトの性質上、もともと解約率は比較的低いのですが、私の入社から2〜3年めに、大型のお客様が立て続けに解約してしまったことがありました。それを機に、チーム全体としてしっかりと取り組んでいくことになったのが、CSMひとりあたりの担当顧客数の適正化と、お客様への定期的なコンタクト頻度の見直しです。
お客様がどの機能を使っているか、バージョンアップの進捗状況といった定量的なデータももちろん見ていますが、やはり一番重要なのは、お客様と直接会話して得られる定性的な情報です。地道ではありますが、お客様に実際にヒアリングを行い、会話を通して得られる情報がもっとも重要だと考えています。

──お客様の自律的な活用を促す取り組みはありますか。
大規模なお客様にはCSMが担当としてつき、手厚いサポートを行う「ハイタッチ」戦略をとっています。一方で、すべてのお客様にサービスを提供できる仕組みづくりも進めています。オンラインセミナーの定期開催に加え、昨年からはお客様同士がつながるユーザー会やユーザーコミュニティにも力を入れています。
とくにSlack上で運営しているコミュニティは順調に拡大しており、今年に入ってから参加者は500名を超えました。コミュニティ内での活発な情報交換や課題解決を促すことで、将来的には我々が手間をかけなくても、お客様同士で活用が進んでいく状態を目指しています。
また、お客様自身が活用状況を把握し、自律的な成長を促すための「セルフ活用チェック」も用意しています。これは、お客様が今どのステージにいるのかを可視化し、次に何に取り組むべきかの道筋を示すものです。ただ単に自立を促すだけでなく、「より深く、便利にサービスを使ってもらう」ためのガイドの役割を担っています。
カスタマーサクセスは「ミッドフィルダー」である
──社内で、カスタマーサクセスチームはどのような立ち位置にありますか。
社内では、お客様の運用フェーズを一手に担う存在だと認識されていると思います。以前はディフェンダーのような守りの役割が中心でしたが、今はアップセル・クロスセルといった攻めの部分も担うようになり、サッカーでいうミッドフィルダーのような役割に変化してきました。
CSMは、顧客の成功を第一に考えながら、営業、マーケティング、プロダクトチームといった社内の各部門をつなぐハブのような存在でもあります。プロダクトチームとは定期的にフィードバックを共有し、マーケティングチームには既存顧客向けのセミナーを企画してもらったり、営業チームにはお客様事例を紹介したりしています。部門を横断した活動の中心となり、組織全体での「顧客の成功の追求」を加速させる役割でありたいですね。
──カスタマーサクセス組織で成果を上げたいリーダーや、カスタマーサクセス職を志す方へのアドバイスをお願いします。
まずは、「プロダクトや会社によってカスタマーサクセスの役割はまったく違う」という前提を理解することが重要です。既存営業の役割が強かったり、サポートが主だったり、本当にさまざまです。自分が提供するサービスが「誰のため」のものなのか、そして自分がどのような「介在価値」を発揮できるのかを考えることが、キャリアのミスマッチを防ぐ上で非常に大切だと思います。
個人的には、「誰かの『わからない』を『わかる』にできる」のがこの仕事の面白さです。売上目標に偏りすぎると苦しくなりますが、顧客の課題を解決することに楽しさを見出せれば、長く活躍できるはずです。お客様業務への解像度を高く持ち、何が起こっているか全体を俯瞰できる好奇心があれば、必ず活躍できるでしょう。
私自身、社内の質問にはメンションがなくてもすべて目を通すようにしています。それは、自分自身が何が起こっているかを把握したいという好奇心から来ていますが、それが結果として、困っているメンバーを助けることにつながっているなら嬉しいですね。

──最後に、今後チャレンジしていきたいことを教えてください。
具体的な計画はこれからですが、AIエージェントを活用してお客様の解約要因を分析し、示唆やアラートを出す仕組みを構築していきたいです。また、お客様同士のコミュニティをさらに盛り上げて、我々がいなくてもお客様自身で課題を解決できるような世界を目指したいですね。
──ありがとうございました!