「差がつく」という危機感が、AIの定着をうながす
田口 営業は科学と化学である、AI活用は山登りではなく波乗り感覚──。おふたりのお話から、AI活用に関するヒントを多数いただきました。最後は会場からの質問にお答えいただきましょう。
私たちも営業活動をアップデートするため、AIやさまざまなTips、ツールなど新たなテクノロジーや仕組みを広めていきたいと考えています。しかし、やはりベテラン営業ほど、デジタルに抵抗を感じる方が多いようです。
すべての営業がAIを活用できるように取り組むべきか、それともAIを取り入れる一方で、抵抗を感じる方々は従来のやり方を続けてもらうのが良いのか。最終的なゴールとして、どこを目指していくのが良いのでしょうか。

戸松 我々はデータの民主化という言い方をしています。データドリブンの恩恵を受けるのは、社員全員が対象でなければいけないという考え方です。しかし、格差が出るのは仕方がありません。収益をあげるためには、使いこなせない人たちに合わせて進化のスピードを緩めるわけにはいきませんよね。
一方でAIが進化すればするほど、“fail safe”の仕組みをつくりやすくなるのではないでしょうか。生成AIが普及する前は、データ活用の知識やノウハウがない人をフォローする仕組みはありませんでした。しかし今後AIが浸透すれば、まるで会話やチャットをするようにデータを活用できるツールが増えていく。誰でもダッシュボードを作成できるようになるんです。そうした意味では、AI利用についての格差自体はなくなりませんが、営業活動の量や質の格差は埋めやすくなっていくのではないかと思います。
小松 私は外資企業の経験が長く、up or outが比較的容易な環境にいました。そうした観点から少し厳しい言い方をすると、AI活用をするかしないかは、今後成長するかしないかを判断する基準になるとも言えます。資料作成ひとつをとっても、AIを使えば効率も精度も格段に高まることは明確ですから。
そこで社内に向けて、あえて「3日かけて資料を作成する人と5分で作成できる人では、どちらが組織にとって必要だと思いますか」という話をするようにしています。戸松さんがおっしゃったとおり、全員がAIを使える環境を整えるのは非常に重要です。しかし強制はしません。そのうえで「AIを活用するかしないかで、成果にはっきりと差がつく」ということは伝えています。やはり1人ひとりが危機感を抱かないと、全社的な定着はなかなか難しいのではないでしょうか。
田口 組織での活用促進について、非常にリアルな回答をいただきました。最後におふたりからひとことずつ、メッセージをいただけますか。
小松 デジタルと人の良いバランスを見つけ、いかにして生産性を上げるか。富士通も試行錯誤している最中です。しかし、この取り組みをお客様に紹介すると、興味を持っていただいたり、「相談にのってくれないか」と声をかけられたりすることが意外と多い。我々は答えを持っているわけではありませんが、取り組んでいることや学んだことで皆さんのお役に立てることもあるのだと感じます。今回も、まさにそうした“学んでいる最中”のことが何かヒントになれば幸いです。
戸松 山登りと波乗りの話をしましたが、この状況はしばらく続くと思います。ここで重要になるのは、良い波に乗った優れたユースケースを、皆さんと共有することではないでしょうか。今日お話しした内容はそのまま真似していただいて構いません。反対に、皆さんの中で良いユースケースがあれば、ぜひ真似させていただきたい。同じ船に乗っている仲間だと思いますので、これからもよろしくお願いします。
田口 AIは、まず試してみて成功も失敗も経験する。テクノロジーの進化に伴いまた新たな取り組みをスタートする。目まぐるしく変化する領域だと思います。本セッションをきっかけとして、ぜひAI領域へ一歩を踏み出し、取り組みをシェアしながら、“AIエージェント元年”と呼ばれる2025年を過ごしていきましょう。戸松さん、小松さん、本日はありがとうございました!
