プレゼンの達人が目覚めた日
――西脇さんがプレゼンに目覚めたきっかけを伺うことはできますか?
キャリアのスタートはプログラマーでした。仕様書に基づいてプログラムを書く人です。コーディング能力がついて、仕様書がないもの、自分が発想したプロダクトをつくるようになります。そして、つくったものをセールスに売ってもらっていました。
つくる人は良いものをつくる、売る人は良い売りかたをするということで役割分担されていたわけです。ただ、私も年次が上がっていき、「プロダクトマネージャー」のような役割になって、技術を知っている人間として営業同行をする必要が出てくるようになりました。
ある日のことです。営業が話す内容のなかで、「待て!それはそういうふうにつくってないぞ」「自分が魂をこめてつくったのはここで、そこじゃないぞ!」ということが出てきて。「自分ならこう言うな」「この画面を見せるな」「セールストークにはこの部分を持ってくるな」と思いました。当然ですが、つくった人間として思い入れがあるからです。
このギャップを感じたときに「自分は売る側の人間なのかな」もしくは「つくった人がプレゼンをしたほうが良いのでは」と思うようになりました。
その当時は日本オラクルという会社にいたのですが、技術者の頭で伝えかたについて考えながら仕事をしているうちにプレゼンがうまくなってきました。いろいろな手法やテクニックがあるので「これ勉強会にしよう」と社内の営業を集めて勉強会を始めたんです。
――技術者なのに、プレゼンが上手に。もともと話すことも好きだったというのもあるんでしょうか?
たしかに話すのは好きだったというのもポイントですが、重要なもうひとつのポイントは「デモンストレーション」です。僕は「プレゼンの達人」と呼ばれる前に「デモの達人」と呼ばれていたんですよ。ある出版社で特集も組んでもらって、社内でも「デモ達」と呼ばれていました。「デモ」は製品でできることのリアリティを見せるものです。そして当時、これはセールスではなくて技術者にしかできないことでした。
――それまでは、デモとセールスは切り離されていたのでしょうか。
そうですね。営業の人がやることもないし、商談のシーンでもやることがなかった。ではそれまではどうしていたかと言うと会社にデモができるスペースがあるので、「弊社にデモを見に来てください」という文化だったんです。顧客に会社に来てもらうということで営業接点も増えて関係も深まることはいいのですけれど、ファーストコンタクトで「デモ」ができてもいいじゃないですか。だからできるようにしていこうと思ったんですね。