ナーチャーから「成果」へ、カスタマーサクセスの変化
向井(ウェルディレクション) この連載のテーマは「顧客視点」なんですが、今回はカスタマーサクセスの観点から顧客視点を考えてみたいと思い、山田さんにお声がけしました。
山田(sasket) ありがとうございます。かんたんに自己紹介しますと、向井さんと同じくALL STAR SAAS FUNDでアドバイザーを務めています。また、sasket LLCという会社を立ち上げ、カスタマーサクセスのコンサルティングを生業にしています。カスタマーサクセス組織を構築したり、プロダクトの価値を明らかにしたりする支援がメインですね。
向井 どのような企業からの相談が多いのですか。
山田 スタートアップとメガベンチャー、どちらでもないそのほか小売業などが3分の1ずつくらいの割合ですね。たとえばメガベンチャーなどは、セオリーどおりにカスタマーサクセス組織を整えているため、チャーンレートは低いのですが、「エクスパンション(顧客の利用拡大)」に課題を抱えている話もよく聞きます。あとはなぜかメンバーが辞めてしまう──原因は複合的で、従業員は何となく閉塞感を感じているケースも多いようです。
向井 なるほど。この流れで本題に入っていきたいのですが、カスタマーサクセスの仕事は今、どう変化してきていると山田さんは見ていますか。
山田 カスタマーサクセスの仕事には、まず「ナーチャー」──つまりお客様を「育成」してより利活用してもらう活動があり、それを達成したうえでお客様に「成果を与える」ところまで担っています。2018年から2022年までのカスタマーサクセスの役割は、ナーチャー部分に偏っていたと思います。
ナーチャーをしっかりやると、チャーンレートを下げることができます。ただし、お客様に対して価値あるサービスを提供しようとしたときに、ナーチャーだけではうまくいかない。「お客様にどんな成果を与えるのか」が、今やっとカスタマーサクセスに求められてきていると感じます。
向井 そもそもカスタマーサクセスという名前からして「成果」にコミットする仕事だと考えるのが正しい気がするのですが、日本ではこれまでなかなかその機運が生まれなかったですよね。
山田 海外では2019年ごろから流れはありました。ただ、日本はまだそこに追いつけていなかったため、まずナーチャーを効率化するメソッドが輸入され、広がりました。その結果、効率良くお客様を立ち上げられ、チャーンも減らすことができた。今やっと「それだけでは足りない」と気づいたということですね。とくに私が支援しているような、SaaSのメガベンチャーが困り始めた印象があります。
向井 そのあたりの企業によって「これぞサクセス」という事例が発信されると、その背中を追うように、業界全体が成果に目を向けるカスタマーサクセスに変わっていけるかもしれないですね。