大口顧客からのクレーム 全国3位に上り詰めた背景とは
──キーエンスの営業としてキャリアをスタートされています。営業職を志したきっかけを教えてください。
最終的に目指していた起業にもっとも必要な力が営業力だと理解していたからです。営業を極めることが、マーケティングやほかの職種にも活きるのではという予感もあり、「営業が強い」と言われている会社に就職しようと考えました。
キーエンスについては正直あまり知らなかったのですが、優良企業からの内定を断ってキーエンスに就職する先輩方の姿を見て、関心を持ちました。メーカーの中でも圧倒的な成長率と利益率を誇り、業界初や世界初の商品の扱いが7割超、そして高年収企業であること。これらを支える仕組みに非常に興味が湧きました。
──入社してみて驚いたことはありますか。
たくさんあります。ひとつに絞るとすると、やはり「データ蓄積における徹底力」でしょうか。たとえば、CRMに顧客情報を残す際のデータの粒度は非常に細かく、それを全員が行っています。そのデータを基に分析を行うことが当たり前で、そのようなカルチャーがきちんと浸透している点がいちばん驚いたところですね。
最初の3ヵ月はロープレを行うのですが、その際に行うセンサー実機のデモにおいても1mm単位で角度を揃えていきます。データを揃えるための細かなこだわりと努力はピカイチの企業だと感じます。
──さまざまな経験をなさったと思いますが、現在の営業人生につながるような印象的なエピソードがあれば教えてください。
実は新卒のころはあまり営業成績が良くなかったんです。そんなある日、ある超大口顧客から「顔も見たくないから来なくて良い」とクレームをもらってしまいました。「あとで資料を送っておきますね」のような小さな約束を守らなかったり、お客様への理解が浅く、薄い提案しかできていなかったりしたことが原因でした。うすうす気がついていた自分のダメなところが露呈したのです。
そこからは地道に挽回に努めました。お客様のもとにあらためて通わせていただき、熱意を伝え、お客様の言葉をあらためてしっかり聞く。結果として、クレームをいただいたお客様から自分史上最大の受注をいただき、営業として全国ランキング3位にまで上り詰めました。その後も、継続的にトップ10に入れるようになっていったのです。
この経験を経て、顧客のことを顧客以上に知ることの大切さに気がつきました。事業はもちろん、お客様の組織的な課題から、お客様個人が抱える課題まで、IR資料やCRMの情報を読み込み、最後は組織図を持っていって足で情報を稼ぐ。お客様の解像度が変わってくると提案にも厚みが出ます。どうしたら売れるかがなんとなくわかってきたんですよね。
──持続的な成果を支えた工夫はありますか。
長く事業をやっている会社ですから、過去のクレームなどさまざまな要因で営業できていない企業のリストが存在します。成果を出すためにあえて提案NG企業に飛び込むことをやっていました。