社内にデータがなければ、生成AIは活用できない
──はじめに、おふたりのミッションについて教えていただけますか。
梅津 リコーにおけるAI領域のR&D全般を担っています。これまで画像AIなど、さまざまなAI開発に携わってきました。2023年には生成AIが一世を風靡しましたね。リコーでも生成AIを取り入れた新たなビジネスの立ち上げが課題となり、「AI開発の知見を持つ人間が関与すべきだろう」と、2023年10月よりAIインテグレーションセンターの所長に就任しました。現在は生成AIを活用した顧客企業のシステム構築や、生成AIを使った新たなソリューション開発などを行っています。
児玉 リコーのAIインテグレーションセンターの副所長と、リコージャパンのAIソリューションセンターのセンター長を兼任しています。両社の役割をかんたんに説明すると、リコーはメーカーとしてリコー製品を開発し、リコージャパンは顧客の要望に応じてリコーや他社の製品も組み合わせながら最適な製品を販売しています。
生成AIは活用のベストプラクティスが確立しておらず、営業は非常に難易度の高い提案が求められています。そこで、生成AIの活用方法とお客様への提案方法を一気通貫で検討していくため、リコーとリコージャパン両社の組織を兼任しました。
──生成AIの開発と提案、両側面で新たな挑戦に取り組んでいるのですね。そんなおふたりから見て、営業現場で生成AI活用する際の課題とは何でしょうか。
梅津 とくに日本のメーカー企業では、製造領域と営業領域の属人性を解消するため、生成AIに注目している企業が多いようです。そこで課題となるのが「社内のデータやドキュメントに基づき、自社の業務に即した回答を得るにはどうすれば良いか」ということ。たとえば製造領域では、「設計技術の伝承」において社内の技術データと生成AIを活用しようとしています。ひとりの天才開発者が局面を打開するのではなく、若手でもAIの力を借りながら設計できるようにしたいという要望があります。
一方、営業領域が目指しているのは「営業プロセスのデジタル化」です。提案事例や顧客情報を蓄積していても、自分が担当する顧客の困りごとにマッチするものを探し出すのは非常に大変ですね。そこで生成AIを活用して顧客への提案を最適化し、組織全体の営業力を高めて売上を拡大することが求められています。
児玉 社内データの活用では、個人戦とチーム戦、どちらで営業活動を行っているかでも課題は異なります。個人の勘や経験に基づく営業活動を行っている組織は、過去の事例やノウハウがデータ化されていません。「データを基に何かを生成する」のが生成AIですから、そもそもデータが蓄積されていない場合、生成AIを取り入れても成果が出ないのが実態です。
一方、チームで営業している組織は情報をシェアする文化・仕組みが形成されており、データは蓄積されています。しかし、とくに複数の部署があるエンタープライズ企業では、製造部門・営業部門・設計部門それぞれのロジックに基づきデータを分類・管理しています。そもそもAIを活用する前提でデータを管理していませんから、膨大な社内データを生成AIで活用できるかたちに整えることが課題となっています。