DXは“会社全体”の変革
戦略とデータを踏まえて意思決定すべき
──Sales Techを導入する企業が増えている一方、顧客への価値提供という本来の目的を達成できている企業はまだ多くないと思います。データ活用やDXについて、木田さんはどのように考えていますか。
多くの企業がブームに追われてDXを進めていますが、残念なことに、DXが目的化してしまうケースが多いようです。中間管理職が目的を理解しないまま上層部からの指示を現場に伝えると、現場でも“なんとなく”取り組みが始まってしまいます。本来DXは業務変革やお客さまの体験価値の向上といった目的を達成する手段として行うべきですが、多くの場合、目的が置き去りにされがちです。
加えて、DXは単独の組織で完結するものではありません。カスタマージャーニーを考えれば、DXは会社内のすべての部署に関係するはずです。しかし日本企業は組織がサイロ化している場合が多く、横断して各部門を巻き込める人材が少ないのも、DXが進まない理由のひとつですね。これらの環境要因から局所的な視点に留まることにより、多くの場合、会社全体の変革であるはずのDXが部分最適に終わっているのが現状です。現場は頑張っているのに、真のデータ活用や成果につながらないのは悲劇と言えるでしょう。これらの失敗経験からDXに臆病になってしまう悪循環も生じています。
DXの運用においては、データを収集・分析し、改善のPDCAを回すことが重要です。「大量のデータがあるからとりあえず分析してみよう」とDXにアプローチする企業は多いのですが、これは失敗してしまう危険性が高いでしょう。どれだけデータがあっても、目的を明確にし、専門性に裏付けられたアウトプットのイメージを描けなければ、効果的なディレクションはできません。しかし実際には、データ活用の専門性や経験をもたない経営層がコンサルティング会社と会話する中で現場を置き去りにしてしまい、本来数年を要するプロジェクトを半年間で進めるよう指示してしまうといった事態が多くの日本企業で起こっています。当然、中途半端なアウトプットしか出せませんが、この結果だけを見て「データって使えないよね」といった認識が生まれてしまうのが、ありがちな失敗のパターンです。
会社としてデータ活用を謳うのであれば、戦略に基づいてデータを扱い、意思決定できる人が組織の上層部にいないといけません。グローバルでは、データ戦略を描ける人材が組織の上層部へ登用される方向へとシフトしています。さまざまな企業を見てきましたが、現場の感覚に加えてこのような専門性をもっている経営層や管理職は、まだまだ少ないですね。