「仕事のやり方を教えてくれない」 部下の悲痛な叫び
「理屈ではなく、とにかく経験。場数を踏むことこそが営業上達の秘訣」
「ここぞというときには自分の『勘』を信じるべし」
「したがって、『勘』の鈍い営業はダメな営業」
「新米営業は先輩の『背中』を見て学べ」
「仕事のやり方を“教えてもらおう”なんて考えは甘い。周りは皆ライバル。仕事は(ハイパフォーマーのやり方を)“盗むもの”」
こうした「経験・勘・度胸=K・K・D」スタイルの仕事のやり方を尊重するビジネスパーソンは、営業職に限らず、現在40~60代の人に比較的多いものです。ドキッとした方も、「自分は違う」と思った方も、「自分は本当にこんなマネジメントをしていないだろうか?」と確認する気持ちで本稿を読んでみてください。
かつては、営業の世界においてこのような「職人気質」な価値観は当たり前のようにありました。高度経済成長期、バブル期の日本市場であれば、自社の商品・サービスを買ってくれる顧客は、それこそ至るところに存在したでしょう。そんなときには「数を打てば当たる」ことは自然なことであり、失敗体験から学んで次に活かすこともできたでしょうし、あるいは成功体験を積み重ねて営業に対する自信をつける余裕もじゅうぶんにありました。
しかし今はどうでしょう? どんな業種においても、顧客の絶対数そのものが減りマーケットが縮小している=人口減少時代の真っ只中です。「失敗を繰り返しながら試行錯誤し、営業スキルを身につける」という余裕は、個人にも、そして組織にもありません。
以前、ある企業の幹部から「若手の営業が定着しない(すぐに辞めてしまう)」という相談がありました。そこで私の会社のスタッフがその企業の若手社員にヒアリングをしてみたところ、「上司、先輩が仕事のやり方を何も教えてくれないんです」という声が多く聞こえてきたのです。
まさにその企業のマネージャー層は40~60代の「K・K・Dスタイル」で仕事を覚え、営業として育ってきた人たち。マネジメント・部下育成においても「背中を見て覚えろ」というタイプなのです。「営業部では『どんなやり方をしたら成果が出せるか』は教えてくれないらしい」「もともと『営業センス』のある人しかやっていけない」……そんな評判から、その企業では営業職を志望する若手はほとんどいない、ということでした。
「経験から学べ」「背中を見て(仕事を)覚えろ」……行動科学マネジメントの観点からすれば、こうしたマネジメントはまったくのナンセンスです。もうおわかりのように、それらは「行動にフォーカスしていない」からですね。
ここで、行動科学マネジメントでいう「行動」とは何かについてお話ししておきましょう。