コミュニケーションの「目的」を考えてみよう
<行動科学マネジメントの特徴>
- 人の内面ではなく、人の“行動”そのものにフォーカスするマネジメント
- 人間の行動のメカニズムを利用して、“望ましい行動”を繰り返させることを目的としたマネジメント
- 8割の人材を同時にハイパフォーマーへと底上げするマネジメント
こうした特徴から、「行動科学マネジメントは上司と部下の1対1のコミュニケーションは重視しない(あるいはまったく関係ないものとする)」と思われる方もいます。
しかし、それは大きな誤解です。実は行動科学マネジメントは、職場におけるコミュニケーションを非常に大事にします。
「上司とのコミュニケーションの量が少ないほど部下の離職率は高く、コミュニケーションの量が多いほど離職率は低い」。これは行動科学マネジメントの常識でもあります。では、なぜコミュニケーションが必要なのでしょうか?
ここでも多くの方が誤解されます。「部下と仲良くなることで互いの間に“絆”が生まれる」「強い絆があれば、そうかんたんに会社を辞めることはないだろう」「やはり何だかんだ言っても、ビジネスの世界は“義理と人情”が大事」。そう考えるマネージャー層が大勢います。
もちろん、職場において上司と部下が「親しくしてはいけない」ということはありません。また信頼に値しないような上司に従おうとする部下はいないでしょうし、コミュニケーションがまるでなく人の話を聞く耳を持たない人物に、何か重要な相談をすることもありません。
しかし行動科学マネジメントでは、そうした基本的なこととは別に、コミュニケーションをとる大きな目的があります。
ひとつは「信頼関係の構築」です。当然のことですが、前述のように、信頼に値しない上司に人は従おうとはしないものです。
信頼関係の構築と言うと何だか曖昧な、精神的な意味合いの言葉で、「行動科学マネジメントらしくない」と思われるかもしれませんが、これはいわゆる「環境づくり」を意味するものです。
どんな環境かと言えば、それは「(上司と部下が)何でも話し合える環境」です。営業において判断に迷った際に、相談すれば的確なアドバイスをくれる。ミスを犯した際にも親身になって共に解決策を見出そうとしてくれる……。そんな上司がいて、自分の日々の働きぶりを把握し、承認してくれる職場環境においてこそ、部下は心理的安全性を保ち、自らのパフォーマンスを伸ばしていくことができるのです。
もうひとつのコミュニケーションの目的は「相手の動機づけを知る」ということ。
以前この連載の第3回の記事で「相手が自発的に行動するための動機づけ(専門的には「リインフォース」と言います)を部下に与えることが上司の大きな役目である」というお話をしました。
相手(部下)はどんなことを望んで成果を挙げようとするのか? 仕事に何を求めるのか? 価値観が多様化している現在、それは決して「お金」や「出世」に限ったものではありません。そうした個々の価値観を知るために、日々のコミュニケーションは必要なのです。