部下に「小さな成功体験」を意識させる
自分の行動が自分に「望ましい結果」(メリット)をもたらすからこそ、人は行動を繰り返す
相手に「望ましい行動」を繰り返させたければ、相手の行動に「望ましい結果」(メリット)を与える
これが、人間の行動原理に則った「行動科学マネジメント」の考え方です。
望ましい結果は、相手が自発的に行動するための動機づけ(専門的には「リインフォース」と言います)となり、この動機づけを部下に与えることが上司(=リーダー、マネージャー)の大きな役目となります。
部下の「やらなければならない」(have to)を「やりたいからやる」(want to)に変えてハイパフォーマーにするには、ここがとても重要なのです。
当たり前ことかもしれませんが、営業活動において“望ましい結果”と言えば「営業成績の向上」、すなわち成果を挙げることでしょう。しかし、誰もがすぐに営業で成果を挙げることができるわけではありません。ハイパフォーマーは自らの成果が行動を後押しし、さらに成果を挙げていく。ところが、そうでない人々にとっては「(行動したけれど)なかなか成果が挙げられない」という“望ましくない結果”が、自らの行動にブレーキをかけてしまいます。これでは組織としての底上げを望むことはできません。
では、上司はどのような取り組みをすれば良いのか?
端的に言えば、部下に対して行動の後押しとなる「望ましい結果」を意図的に与えるのです。
上司が部下に与える「望ましい結果」の代表的なものが、「小さな成功体験」です。つまり「小さなゴール(スモールゴール)をクリアさせていく」ことです。 訪問件数で言えば、いきなり大きな目標を掲げてクリアさせるのではなく、できる範囲の、ハードルの低い数をこなしてもらう。そして徐々にこなすべき件数を増やしていくのです。
低いハードルをこなすごとに、部下は「自分はできた!」という達成感と「自分にもできるんだ」という自己効力感を手にします。この成功体験が、行動を後押しする「望ましい結果」です。
「スモールゴール」をクリアした先に得られるもの
営業活動の話からは逸れますが、「スモールゴール」の効果について、私自身の例をお話ししましょう。
私はトライアスロンや登山といった、過酷な状況への挑戦が趣味でもあります。そこで得られる達成感、自己効力感は格別なものであり、それらを得ることがまた次の挑戦へと背中を押すことになるわけです。
とはいえ、こうした挑戦への「最初の一歩」は、実に小さなステップでした。
それまでスポーツを趣味にしてこなかった私は40代になってから、ある雑誌の企画で「フルマラソン完走」に挑戦することになりました。この企画でまったく初心者の私にランニングのメソッドを指導してくれたスポーツナビゲーターの方が私に課した最初の課題は、「週に2回、30分歩いてください」というもの。いくら運動から遠ざかっていたとはいえ、42.195㎞のフルマラソンに挑むための取り組みが「30分歩くだけ」とは、さすがに私も戸惑ったものです。
しかし、この最初の一歩は行動科学的には大正解なのです。「30分歩く」をこなせた私は、次に「30分のうち5分は走る」「10分は走る」「30分走る」と、次々とスモールゴールをクリアしていきました。それらをクリアするごとに小さいながらも達成感、自己効力感を得ていったことは言うまでもありません。こうした行動の積み重ねによって、やがて私はフルマラソン完走に成功。さらに、100㎞マラソン、トライアスロン、果てはサハラ砂漠横断マラソンなどにも参加するようになったのです。
例えが突飛すぎたかもしれませんが、これは人間の行動原理であり、どんな場合においても共通するものです。もちろん営業も同様でしょう。「できない人」が「できる人」になるためには、こうした小さな成功体験の積み重ねが必要なのです。