インバウンドな営業を実践するための、4つの工夫
連載1本めとなった前回記事「その営業は真に『顧客のため』になっているか インバウンドな営業とは」では、インバウンドな営業とは手法ではなく“思想”の問題であり、根底にあるのは「顧客から価値を受け取る前に、こちらから価値を提供し、顧客に満足してもらう。顧客の目線に立って活動する」ことであると解説しました。今回は、インバウンドな営業を実践する組織のつくり方について、HubSpotの事例も用いながら解説していきます。
まずは、HubSpotが組織にインバウンドな営業を定着させるために行っている工夫を4つご紹介します。
1)行動規範「カスタマーコード」で営業のあり方を明文化し、議論を重ねる
HubSpotには、グローバルで行動の規範としている「カスタマーコード」というものがあります。顧客に愛される会社の創造に欠かせない原理や信条をまとめ、「何を売るかではなくどう売るか」を明文化したもの。このカスタマーコードがあることで、すべての従業員がインバウンドの思想に立ち戻り、自分が起こしているアクションが顧客のためになっているのかを考えることができます。
また、顧客から実現が難しそうなリクエストを受けた際や、「売上予算」と「顧客との関係性」の間で迷ったときなどに考え方のヒントを与えてくれるものとなっており、HubSpot Japanのセールスチームでは、この「カスタマーコード」をもとにした議論を常に行っています。
たとえば、コードのひとつに「無理やり関心を引こうとせず、顧客を惹きつける魅力を創造すること。」というものがあります。営業をしていれば、必要以上の値引きを行ったり、顧客にとって無理のあるスケジュールを強行したりなど、一度は「無理やり関心を引こうとした経験」があるのではないでしょうか。
HubSpotでは、「無理やり関心を引く行動をとってしまうのはなぜか」「顧客を惹きつける魅力とはどのような行動から醸成されるのか」といった議題について、実例を取り上げながらメンバーと議論し、考えを深める時間を設けています。直接的に売上にはつながらないかもしれませんが、組織全体でインバウンドな営業を実践するにあたり非常に重要なインプットの時間であり、この議論の1つひとつが、結果的には事業の持続的な成長をもたらすと考えています。
2)プレイブックを作成し、具体的なアクション事例を共有する
カスタマーコードをもとに思考を深めるだけでなく、具体的な営業のアクションとして習慣化させるため、「プレイブック」(チームで共有できるドキュメントやデータの総称)を作成し、それぞれのメンバーが商談を進める際の参考にしています。
バイヤーズジャーニーを示すフローチャートに、顧客の情報や、それぞれの検討ステージが変わるときの顧客の状態を落とし込みます。そして「このステージでは顧客は何を知りたいと感じているのか」「顧客が求めているものを提供するには営業はどのようなコミュニケーションをすれば良いのか」など、営業側の具体的なアクションを議論します。このように、フローチャートを参考にしながら、インバウンドな営業を実践するための思考を習慣化し定着させています。
3)マネージャーとの商談レビューの視点を徹底する
商談のレビューも、インバウンドな営業の定着に欠かせない機会です。商談進捗確認のミーティングでは、マネージャーとメンバーの会話の論点が、どうしても「どのくらいの確度で、いつ、いくらで成約できるか」に終始しがちです。こういった予実管理は当然重要ですが、商談の中身について話し合えるせっかくの場ですから、「この提案は本当に顧客の成功につながるのか?」「顧客と自社双方にとって、もっと長期的にメリットがある提案の仕方はないだろうか?」と検討を重ねることが、インバウンドな営業の定着につながると考えています。
4)思想とKPI設計を調和させる
最後のポイントはとくに重要です。営業の評価指標は売上と紐づくことがほとんどであるため、営業担当に思想が浸透していたとしても「今月の数字達成を優先してしまう」という状況は想像に難くありません。HubSpotでは、短期的な数字を追ってしまい顧客にとって有益な提案ができないという状況を避けるため、「一定期間内で解約した場合、担当営業はインセンティブを返納する」などの決まりを設けています。また、営業の昇進の要件にも、自身が担当した顧客の製品利用継続期間が含まれています。
思想を掲げるだけでは、結局きれいごとで終わってしまうという状態になりかねません。事業として本当にその思想を貫くには、思想と事業戦略、組織構成、KPI設計も調和させる必要があるのではないでしょうか。