AI時代のマインドセットと「アンラーン」

野口氏への取材で、AIは営業にポジティブな影響を与えるだけではなく、脅威にもなりうるという二面性が映し出された。しかし、AI駆動人材としてのスキル、そして対人コミュニケーション力や信頼関係構築スキルといった“人間力”をともに高めていけば、営業としての“ぶれない存在価値”を手に入れることができるだろう。
この状況において、営業職に求められるのは、まさに「マインドセットの変革」だ。AI時代の新しいマインドセットを持つため、野口氏は、自身の著書でも紹介している「アンラーン」という概念を教えてくれた。
「私自身、2ヵ月に1回アンラーンして余白をつくっています。最近は『スポンジ脳』とも言い換えているのですが、今まで持っていた知識を一度ギュッと絞って、空きをつくり、もう一度吸収させなければいけないんです」(野口氏)
これはAIをはじめとした技術の常識が2ヵ月に1回ほど変わる現代において、不可欠な姿勢だという。これまでの業務の慣習ややり方も一度リセットし、ゼロベースでAIと共に最適なプロセスを再構築していくことが求められる。
また、「AIをどのような存在として捉え、付き合っていくべきか」と問いかけると、野口氏は「部下、上司、同僚、そのすべてとして捉えて良い」と即答した。
「ときに部下のように動いてくれるよう指示し、ときに上司のようにアドバイスを求め、ときに同僚のようにアイデアを出し合いながら切磋琢磨する。360度、あらゆるシーンで登場してもらう存在として捉えるのが良いでしょう。むしろ、存在を固定せずに柔軟に付き合っていくべきです」(野口氏)
そして、営業1人ひとりがこうした「AI時代のマインドセット」を持つことはもちろん、企業側もAIをインフラとして活用するための盤石な環境やセキュリティ対策を講じ、ガイドラインを整備することは不可欠だと野口氏は付け加えた。
AIによって「営業の本質」が再発見される
最後に、野口氏は「営業と顧客の関係性」について示唆に富んだ展望を語ってくれた。
「営業職は、AI時代においても活躍が残っている数少ない職種です。営業の非販売業務時間は、7割程度と言われています。その7割がAI活用によって削減され、顧客の課題解決やソリューション提供に向き合える時間が存分に増えるでしょう。“Face to Face”の信頼関係構築のような、人間対人間だからこそ続く営業行為は、今後より一層重要視されるべきものです。デジタルがなかった時代の大切な営業の本質が、AI時代によって再びフォーカスされることになるでしょう」(野口氏)

顧客との対話を深め、関係を築く。営業が目指すべき世界は、今も昔も変わらない。その価値を取り戻すためにこそ、AIはある。
「変化を恐れず、本質を見据える」。そんな姿勢がこれからの営業に求められるのかもしれない。