AI時代に迫り来る“静かな選別”

営業職は、依然として属人的な要素が強い職種であり、今後も多くの仕事が人に残ると野口氏は見ている。しかし、その内訳には「二極化」が訪れていると指摘する。
たとえば、営業プロセス初期のリードジェネレーションやSDR(Sales Development Representative)といった非属人性の高い業務は、AI化が進みやすくなっている一方、フィールドセールスのようにヒューマンタッチの要素が強く、「この人だから」という部分が重要な領域はAI化が進みにくいという。
そして「トップセールス」と「一般的な営業」の二極化についても野口氏は強調した。
「営業のコアな能力を持っているトップセールスにとっては、AIにその能力を代替されることなく、ただ能力を拡張してくれる強力なパートナーになります。AIが顧客理解を深め、雑多な日程調整や初期リサーチ、資料作成などを代行してくれることで、元々持っていたコアな能力を存分に発揮でき、営業成績も飛躍的に向上するはずです」(野口氏)
一方で、「この人だから」というコアな部分を磨き上げてこなかった営業は、非属人タスクに依存しているため「AIで代替可能な人材」と企業側にみなされる。今後さらにAIが急速に進化すれば、遠くない未来、営業職においても雇用削減や採用凍結が発生する可能性があると野口氏はいう。

さらに、野口氏はトップセールスと一般的な営業で、「拡張の度合い」も変わってくると指摘する。
「トップセールスはAIが代替できない属人性の高い部分に特化し、自身の能力を10倍にも拡張する一方、コアな能力を持たない営業は、能力を拡張できたとしても2〜3倍にとどまってしまう、といった差が生まれてくるでしょう」(野口氏)
もし、その差がさらに開き、トップセールスだけで営業目標を達成できる未来が待ち受けていたとしたら──。それ以外の営業は、結局「必要ない」と言われてしまうのだ。
「超AI駆動人材になる」「属人性を磨く」をセットで実現せよ
では、トップセールスではない、あるいはこれから営業を目指す人材は、このAI時代をどう生き抜けば良いのか。野口氏は、「超AI駆動人材になること」「人間的魅力を磨くこと」のふたつが必要だと述べた。
「AI駆動人材とは、セールスオペレーションの多くをAIに任せ、自分はそのAIを動かす『ディレクター』のような立場になることです。『AI or die』と言われるように、AIを使いこなす力は、生き残るための基本スキルになりつつあります。一方で、エンタープライズ営業や複雑な商材を扱う場合は、それだけでは売れません。そこは人間的魅力、つまりヒューマンスキル部分にフォーカスし、磨きをかけることが必要になります」(野口氏)
また、人間的魅力を高めるために、営業の下積みからステップアップする従来のキャリアパスだけでなく、演劇やクリエイターなどまったく異なる経験を経て、その豊かな経験から人間力を身につけるという、新しいキャリアの可能性も示唆された。