自社製品の魅力にとらわれていませんか? 顧客を主役にする方法
私自身もスタートアップで営業を始めたころ、この「商談後ノーレス」に悩んでいました。自分たちのサービスを信じているあまり、その思いを中心に提案を推進しようとしてしまっていたのです。とくにスタートアップでは、「自社の魅力をどう伝えるか」に意識が偏りがちです。私も製品の強みばかりに目を向け、顧客の評価基準やビジネスインパクトという視点を見失っていました。
しかしあるとき、商談がスムーズに進む案件には明確な差があると気づきました。そのひとつが、どれだけ顧客を主役にできるかということ。提案を顧客が「自分ごと」ととらえられるようにプロセスを設計することが必要だったのです。顧客に“受け手”ではなく、“課題解決の主体”として関与してもらう。これが、商談を前に進める鍵でした。
この気づきを得たとき、自分の営業プロセスを見直しました。効率よりも、「顧客と共に進める」ことを意識するようになったのです。その結果、以前とは比べ物にならないほど商談がスムーズに進むようになりました。
では、どうすれば顧客を主役にし、共創する商談プロセスをつくることができるのでしょうか。ここではそのアプローチとして 「未来の事例プロジェクト」を紹介します。これを実践することで、商談は驚くほど推進力を持つようになります。
「未来の事例プロジェクト」というアプローチ
商談を前に進めるための最初のアプローチが、「未来の事例プロジェクト」です。これは、商談の初期段階から「このプロジェクトが成功したら、事例記事を一緒につくりたい」という未来のゴールを共有し、そこから逆算してプロセスを共に設計していく方法です。

通常、事例記事は導入後に依頼されることが多く、商談とは切り離された“成果の記録”として扱われがちです。しかし、それでは顧客の変化や試行錯誤、社内の葛藤など、真のストーリーが抜け落ちてしまいます。結果、「導入しました」「成果が出ました」といった表層的な報告にとどまり、営業側の成果証明のような色合いが強くなってしまうのです。
だからこそ、商談の冒頭でこう問いかけてみてください。「このプロジェクトがうまくいったら、どんなストーリーが生まれると思いますか? 一緒に事例記事をつくれたら嬉しいです」と。これは単なる営業トークではなく、顧客と一緒に“成功の物語”を描く共創の第一歩です。
このときに重要なのは、過去の他社の事例をお見せするときも「これは御社に似ています」と紹介するのではなく、「これが御社と一緒に目指したい未来です」と提示すること。そして、それをストーリーの4つの要素「課題」「プロセス」「障壁」「成果」で語ることで、動き始めます。
たとえば、「最初は社内に当事者意識がなく、現場がバラバラでした」という課題から、「小さな成功体験を積み重ねてチームが動き出した」「KPIに反発がありながらも社内で修正と対話を重ねた」といった障壁とプロセス、そして「半年で定着率が改善し、次の挑戦が見えてきた」とつなげていく。こうした“物語”が、顧客を単なる聞き手ではなく、共演者であり主役として商談に引き込んでいくのです。
このアプローチにより、商談プロセス全体が「導入がゴール」ではなく、「共に成功を描き、届ける旅」へと変化します。顧客はただの“提案を受ける人”ではなく、自らプロジェクトを進める当事者として主体的に関わり始めます。そしてある日、こうした言葉が顧客から返ってくるようになります。「この内容で社内に話してみますね」「成果が出たら、うちからも発信していきたいです」。この瞬間こそ、商談が“提案”から“共創”へとシフトした証拠です。
未来の事例プロジェクトは、ただの演出ではありません。本気で顧客の未来を信じ、一緒に物語を描くという、営業の姿勢そのものです。ぜひ次回の商談で、「このプロジェクトが成功したら、こんな事例記事を一緒につくれたら嬉しいです」と伝えてみてください。そのひと言が、顧客の心に火を灯し、商談に推進力を生み出すきっかけになるはずです。