1万人調査で明らかになった、BtoB営業と顧客の「すれ違い」
転職エージェント「DODA」や人材派遣の「テンプスタッフ」など、数多くのサービスを手掛けているパーソルグループ。グループ内の会社は149社にのぼり、連結の売上高は1兆円超え、従業員数も7万人超と日本を代表する企業のひとつだ。
この広大なグループの中で、調査機関・シンクタンクとして機能しているのが、山田氏と加部氏が所属するパーソル総合研究所(パーソル総研)である。同研究所は、2017年に「インテリジェンスHITO総合研究所」と「テンプスタッフラーニング」が統合して誕生。2021年には富士ゼロックス総合教育研究所をルーツに持つ、パーソルラーニングと組織を統合して活動している。
シンクタンクとしての機能を持つ一方で、タレントマネジメントや人材開発・教育支援といったいくつかの事業も手掛けているのがパーソル総研の特徴だ。そのうち、山田氏と加部氏は営業力強化事業本部という組織に属し、顧客企業の営業部門のアップデートに取り組んでいる。
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同事業本部ではBtoBの営業担当者5,000人、その顧客5,000人の計1万人を対象とした営業の実態調査を2024年に実施している。今回のセッションでは、その調査結果を基に、営業がパフォーマンスを高めるヒントや、働く喜びを感じるために必要なものについて解説がなされた。
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大手旅行会社での代理店営業からキャリアをスタートし、2005年より富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)にて、法人向けソリューション営業に従事。営業マネジャー、インサイドセールスマネジャー、マーケティングマネジャー、商品開発マネジャーを経て、現在に至る。
まず話が及んだのは「いかに顧客の期待に応え、業績を高めるか」。調査ではBtoB企業の顧客に対して「営業に何を期待するか」を全26項目の複数選択式で質問した。すると、顧客側の回答数がもっとも多かったのは「納入後のトラブルへの迅速な対応」であり、「価格や納期交渉における納得いく対応」「費用対効果の明示」が続いた。
一方で、営業側はどうか。顧客の期待に応えるために強化している点としては「納入後のトラブルへの迅速な対応」が1位となり、顧客側と一致している。一方で2位は「お客様の状況や課題、ニーズへの理解」、3位は「お客様のニーズ(スペック、費用)に合った提案」が続き、顧客のニーズと異なる結果となった。
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「1位が一致している一方で、顧客が求めるものの2位と3位は、営業のトップ10にすら入っていませんでした。とくに費用対効果は営業側のランキングで18位と、大きな差が生まれています。これは見逃せません」(山田氏)
高パフォーマンスな営業組織が重視する営業プロセスとは
山田氏は「購入してもらった商品やサービスが、どのような効果があるかを定量的に示すのは、非常に難しいことでもあります」とも続ける。では、どうすべきか。山田氏は、いかに金額ではないかたちで「価値」を訴求するかがポイントだと強調する。
「パーソル総研では営業スキルのトレーニングメニューがたくさんありますが、実際にさまざまな業界の方とお話ししていて気がつくのが、商品の特徴を説明するだけで終わってしまっていることです。それだけでは、顧客が『だから何?』と感じて終わってしまうこともしばしばあります。
単なる特徴の紹介にとどまらず、その特徴がどのようなメリットを顧客にもたらすのか。購入することで、どのような上位ニーズを満たせるのかまで踏み込むことが、非常に重要です」(山田氏)
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ここでのポイントは、価格や納期だけを訴求しないこと。顧客側が「価格や納期交渉における“納得いく対応”」を2位に挙げていることから、もし価格が少し上がったり、納期が若干遅れたりしても、顧客のニーズに対してどのような価値を提供できるか、費用対効果がいかに優れているかをしっかりアピールできれば、問題ないのだ。
そのほか、顧客と営業で回答率に差があったものとして、山田氏は顧客側8位の「当社が気がついていない視点の提供」を挙げる。いわゆる「インサイト営業」を顧客が求めていることを示したデータだが、この項目は営業側ではトップ10圏外であった。
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山田氏は、複雑で解決策が一通りでない課題の外部への相談方法に関する回答も紹介し、顧客側の68.8%は解決の方向性をある程度決めたうえで、それが間違っていないかどうかも含めて外部に相談するとした。この結果も交えながら「多くの顧客は『自分たちが気がついていない視点を教えてほしい』というニーズを抱えているのです」として、インサイト営業の重要性を説く。インサイト営業に重要なものについて、次のように話した。
「まずはお客様を徹底的に調べ、仮説を立てることです。そうすることで、方向性が合っているか相談したい顧客の問いにもすぐに対応できるでしょう。調査では営業側が営業プロセスのどこを重視しているかも質問しています。すると、好業績を出している営業組織は『業界の理解』『顧客課題の整理』といった、受注前のプロセスに力を入れていることがわかりました」(山田氏)
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一方で、こうした事前準備は現場の負担にもなり得る。実際に営業側の22.1%が、商談の前工程・後工程にリソースを割かれ、本来の業務に集中できないと回答している。山田氏は「すべての顧客はたしかに難しいため、重点顧客を選定してリソースをかけていくと良いでしょう」とし、気づきを提供することで顧客が「この営業と話すのはとても価値あることだ」と感じるようなセールスこそが、目指すべき地点だと締めくくった。
営業の「幸せ」は、どうすれば実現できるのか
続いて登壇した加部氏のテーマは「営業担当者が幸せに働くには」。これまでパーソル総研が実施してきた調査から、働く幸せを高めることは個人や組織のパフォーマンスを高めることが明らかになっているとし「営業組織を支援する中でも、チームの雰囲気や営業担当のモチベーションが組織のパフォーマンスに大きな影響を与えることがわかってきました」と話す。
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ITベンダーの人事としてキャリアをスタートし、2003年より富士ゼロックス総合教育研究所 (現パーソル総合研究所)にて人事コンサルディングに従事。 2018年より営業/プロジェクトマネジメント分野のコンサルティング部門長、営業部門長を経て現在に至る。PMP、ITコーディネータ
では、実際に営業担当者は働く幸せを感じているのか。調査では約45%が幸せに感じているという結果に。2020年に全業種・職種を対象として実施した調査では44%ほどだったため、営業は比較的働く幸せを感じている人が多いことがわかる。
具体的に、営業が幸せを感じるうえで重要な職場要因は何か。加部氏は今回の調査結果から「仕事とプライベートのバランスが取れていること」「優れたリーダーシップの下で働けていること」「成果を上げたときに、周囲から称賛を受けていること」の3つを挙げる。
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中でも重要なのが「優れたリーダーシップ」だ。加部氏は過去の調査を参考に「組織目標の落とし込み」とかみ砕いて表現し、構成要素として個人と組織の目標が結び付いていること、ビジョンや理念がメンバーに明示されていること、個人目標の設定時にメンバーとマネージャーが十分に話し合えていることの3つを挙げた。
重要性が高い一方で、幸せへの影響度と職場での充足度をマッピングしたところ、優れたリーダーシップを実践できている企業は「あまり多くない」と加部氏。成果に対する称賛は、幸せへの影響度が高く、さらに充足度を上げる余地があると言い、今後の課題だと指摘した。
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なお「働く幸せ」以外に、個人のパフォーマンスを高める職場要因も調査したところ「成長機会」や「自己裁量」「メンバー同士の協力」がトップ3にランクインした。これらは幸せを高める要因と反対に、充足できている職場が多い結果となった。
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多くの企業に営業実態調査の結果を説明して回る中で、「経営層や営業組織の責任者の皆さんがいちばん関心を示すのは、働く幸せに関する項目」だと加部氏。労働力不足や営業担当の業務負担の増加、AIをはじめとする新たなテクノロジー活用など、現代の営業組織が抱える課題の解決を根底から支えるのが営業のモチベーションだと実感しているからではないかと考えを述べた。
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「本日お伝えした内容の詳細は、ウェブで『1万人の営業実態調査』と検索していただきますと、どなたでも資料をダウンロードできます。お客様の期待に応えて業績を高めるには、そして営業のパフォーマンスを高めて働く幸せを実感してもらうにはどうすれば良いか、ご興味がある方はぜひ気軽にお声がけください」として、セッションを締めくくった。