「高付加価値な新規開拓」を実現する組織づくり
山下 新規開拓に悩む企業が多い中、「新規開拓に注力すべき」という号令は富士通でもあったのでしょうか。
友廣 そこはラッキーというか、計画的偶発性というか。私がデジタルセールスの立ち上げを考えたころ、富士通がモノ売りからコト売りへシフトしたんです。製造業の印象が根強い富士通ですが、事業整理などを経て、現在はハードウェアの製造・販売は行っていないんですよね。それらの既存の売上がなくなるうえで、従来の3~5倍の売上をソリューション提供によって創出しなければならなくなった。そこで新規開拓が必要になり、さらには営業利益も重視されたことで、売上と利益率、どちらも高い水準が見込める高付加価値な新規開拓が求められるようになりました。
山下 インサイドセールスでそのような商談機会をつくるのは、非常に難易度が高いのではないでしょうか。電話では付加価値が伝わりにくく、だからといって、新規顧客へ1件1件デモンストレーションを行うのも現実的ではありません。
友廣 まさにそこがデジタルセールスの真骨頂で、富士通が扱う膨大な製品・サービスを頭に入れたうえで顧客の課題を引き出し、適切なサービスを選定したうえで営業にトスアップしています。インサイドセールスのスキームを用いてはいますが、やはり軸は「新規開拓の営業組織」なんです。
山下 メンバーには非常に高いスキルが求められると思います。そこで、ここからは組織づくりについて教えてください。デジタルセールスにはどんなメンバーがいるのですか?
友廣 3名でスタートして、現在は約130名が在籍しています。そのうち約60名がインサイドセールスを担当しており、ほかにもリードジェン、イネーブルメント、データドリブン、CRM、海外担当などさまざまなチームがあります。
山下 組織が拡大する中で、メンバーのパフォーマンスを上げるにはさまざまな苦労や工夫があったと思います。
友廣 「50名の壁」「100名の壁」にもぶつかりましたし、もちろん、なかなか成果が出ない人もいました。結局のところチームは“人”で構成されていますから、マネジメント層はどうすれば1人ひとりがパフォームするか考えなくてはなりません。 そこで、求める人物像を明文化して組織のカルチャーを醸成すると同時に、セールス・イネーブルメントに着手しました。
イネーブルメントは「隠れたかけ算」
山下 組織の生産性をあげるうえで今後ますますイネーブルメントは必須になりますし、とくに営業組織には、まだ手を付けられていない領域が多く存在します。
友廣 イネーブルメントの真髄は「2:6:2」の6、ミドルパフォーマーを引き上げること。組織全体の成果を上げるキーファクターとして取り組んでいます。
ただ、イネーブルメントをE-learningなどの「トレーニング」だと勘違いしている人は多いですよね。イネーブルメントとは、メンバーが常に成果を出すために伴走することです。たとえばトップパフォーマーの行動を因数分解したうえで、ミドル・ボトムパフォーマー1人ひとりの得意・不得意に合わせた“処方箋”のような個別のトレーニングメニューを作成する。そのうえで、成果が出るまで伴走支援と施策のブラッシュアップを継続していく。まさにウェットなコミュニケーションが必要になります。
山下 メンバーが売上を上げるためのイネーブルメントに加えて、施策を組織に染み込ませるという観点では、マネージャーのイネーブルメントも鍵となりますね。
友廣 まさに。とくにファーストラインマネージャーを重視しています。メンバーを何人配置し、ファーストラインマネージャーは何をするべきか、さらに上のマネージャーや私は何をすべきか……。考える中で次第に組織構造やロールも見えてきますが、とにかく正解はないですね。
実は他社の方と話していて「イネーブルメント組織をつくれば解決するのに」と思うことがあるんです。コストがかかるからと二の足を踏んでいるようですが、イネーブルメント組織があることで、営業組織がどれだけ成果を高められるかはぜひ知っていただきたい。
山下 KPIやロールを決めただけではうまく機能せず、イネーブルメントによる行動変容を掛け合わせることではじめて成果につながる、いわば「隠れたかけ算」ですね。育成を成果につなげる方法論が示せればイネーブルメントの優先度も上がるので、まずはひとりかふたりから始めて効果検証するのも手です。メンバーの育成をイネーブルメントの仕組みや部署が肩代わりするだけでも、営業マネージャーが本来の業務に集中でき、組織全体の生産性や成果向上が期待できます。
友廣 メンバーのラーニングカーブが標準化されるのも、組織全体の成果を上げるうえで有効ですね。これらの成果を定性だけでなく定量で測るためにも、やはりデータドリブンが重要です。