「デジタルセールス」に込められた“思い”とミッション
山下(Xpotential) 書籍を拝読して、まさに「大手企業における組織変革の実務的教科書」だと感じました。私もエンタープライズ企業での経験がありますが、わずか4年で変革を成し遂げたのはとてもすごいことだなと。
友廣(富士通) よく「4年でやったの? 信じられない!」と驚かれるので、速いんだろうとは思います。ただ、目指すことややるべきことはたくさんあるので、まだまだこれからだと感じていますね。
山下 富士通では「デジタルセールス」という組織名を用いていますが、そこにはどのような思いを込めたのでしょうか。
友廣 インサイドセールスは、スタートアップやIT業界のボトム~中間層の顧客に対して有効なメソッドだと思われがちです。その概念を変えたかった。加えて、我々のチームはアポイント獲得やリードクオリファイ、テレマだけが目的ではありませんし、さらに言うと、デジタルツールをフル活用するデータドリブンな組織にしたかった。インサイドセールスの一般的な概念にはない仕組みや特徴をつくりたい思いから「デジタルセールス」と名づけました。
山下 書籍からも、インサイドセールスを立ち上げたというより、大手企業の中でデータをフル活用する営業組織をつくったという印象を受けました。
友廣 まさにおっしゃるとおりで、営業なんですよね。案件発掘から受注に至るライフサイクルのうち、どこを担えば全体の流れを清流化できるかと考えて立ち上がった組織です。そういう意味では「組織改革した」という思いも込めています。
山下 デジタルセールスと営業はどのように役割分担しているのでしょうか。
友廣 富士通に限らず、従来の日本企業は顧客の発見から受注、トラブル対応に至るまですべて営業が担う「先発完投型」が主流でした。富士通には約8,000人もの営業がいますし、わざわざ分業しなくても良いのでは? と思うかもしれません。
しかし、営業は既存顧客の対応や事務作業に追われて非常に忙しいんですよね。そこで我々デジタルセールスが新規開拓を引き受けることで、営業が受注に集中できる体制を目指しました。
山下 受注確度の高い新規開拓に特化した組織、それがデジタルセールスということですね。そうした組織をボトムアップでつくったのも面白い。どのような経緯があったのでしょうか。
友廣 正直、経緯はなくて(笑)。私自身の経験を活かして富士通を変えてみたいという個人的関心が出発点です。同時に、日本企業におけるマーケティングってやはり地位が低くて。我々のチームはもともとマーケティング組織で発足していますし、売上に貢献する仕組みをつくることで、マーケティングに対する経営層や営業の見方を変えたいという思いもありました。
現在はCROのもと、マーケティングやセールスと並列する組織として独立しています。トップダウンでなんとなくインサイドセールスを立ち上げると、セールスの下部組織という位置づけになってしまいがちなんですよね。だからこそ立ち上げのときから、ボトムアップによる独立した組織を目指していました。