クライアントとカスタマー、双方へ持続的な便益を
──2024年4月からリクルート 飲食Divisionを統括されています。キャリアのスタートは営業職だったとのことですが、まずは営業として大事になさってきたことからうかがえますか。
3点あります。ひとつは、「クライアント」だけではなく、「カスタマー」に対しても持続的な便益を提供できる状態を目指すこと。営業がクライアント、企画・プロダクトサイドがカスタマーだけを見るという分断された状態では結局、長く支持されるサービスになりません。垣根を超え、双方が理解できる状態をつくることが大切です。
ふたつめは、顧客とともに価値をつくっていくこと。たとえば、私が以前在籍していたブライダル事業では結婚式場がクライアントで、実際に式を挙げる方がカスタマーです。カスタマーがどのような体験をしたいのか、何を価値だと捉えるのか……そのニーズは刻々と変わっていくものです。この変化を起点に、クライアントと共に新しい価値を生み続けることを大切にしてきました。クライアントもある程度自社の強みを把握していますが、ときにはそこに一段深く入り込んで状況把握や課題設定を行います。
3つめが、1人ひとりの営業が「ものさし」を持って違和感に気がつけるか。リクルートは幸いにも多岐にわたるクライアントとカスタマーのデータを蓄積しています。このお客様ならどれくらいの成果が出るのか、そういった予測を持つことができます。クライアントにとっては自社の実態がすべてですが、リクルートの営業が持つものさしを合わせることでお客様の課題を発掘したり、可能性を提示できたりすれば、もう一段上の価値を発揮できると信じています。
70万軒にリーチする インサイドセールスの立ち上げ
──飲食Divisionでは2017年ごろにインサイドセールス組織を立ち上げてらっしゃいますね。
当時「ホットペッパーグルメ」の掲載顧客数は右肩上がりに伸びていました。喜ばしいことではあるものの、日本全国には約70万軒の飲食店があり、対面のみの顧客接点ではどこかのタイミングで価値を提案しきれなくなるのではないかという懸念がありました。
同時に、ホットペッパーグルメを通じた集客施策以外にも、SaaSを用いた業務支援領域にも積極的に取り組んでいくことになり、対象顧客数がさらに増加し、1社に対して提案できることの幅も格段に広がっていたところでした。そこで、非対面で顧客接点を持つセクションとしてインサイドセールス組織を立ち上げました。
──これまでの営業のやり方から変化することになります。組織の中での反発やネックになることはなかったですか。
もちろん漠然とした不安はあったと思います。ただし、事業の強い意思決定ではあったので、やれない理由を探すのではなく、どうすればうまくやれるかという考え方で改革を行っていきました。営業は顧客に対峙する仕事に誇りを持っているものです。営業改革やDXの失敗でよくあるのは、「社内の生産性を上げる」「効率的な営業プロセスを目指す」など、やや内向きなメッセージが発されること。それによって、自分たちの顧客対峙に必要だったものが失われてしまうことを懸念するのは当然です。
より多くのお客様に今以上の価値を提供するための手段であることを伝え、それを実践できる組織を磨くことができれば、そのあたりのコンフリクトを乗り越えられるはず。とはいえもちろん、我々も最初からすべてうまくいっていたわけではありません。