イネーブルメントは「組織をひとつにする求心力のある施策」
──2社の事業会社でイネーブルメント部門を立ち上げ、現在はXpotential(エクスポテンシャル)でイネーブルメントのコンサルティングを行っている杉村さん。まずは、イネーブルメントに関わるようになったきっかけをうかがえますでしょうか。
私は当初、不動産情報サービス事業を展開するLIFULLで営業をしていました。その後マネージャーを経て、技術チームも含めた事業部の責任者までを経験しました。
そこからストラテジー部門に移り、いち事業部の中期事業計画の策定を担当しました。計画を立案する際はExcelと格闘しながら苦労して計画を立て、なんとか会社に承認をとり「皆さん、この方向性で動きましょう」という流れになるのですが、いざ年度が始まったら、なぜか現場が事業計画をそのとおりに実行してくれないのです。
当初は「何で動いてくれないんだ」という他責の感覚を抱いたのですが、よくよく考えてみると、現場は“やらない”のではなく、“できない”のではないかと考えるようになりました。つまり「現場に対して計画を実行するためのスキルや知識をまったく教えず、ただ計画を示すだけのこちら側に問題があるのではないか」と。
そこで「他責にするのではなく、もっと営業の現場をサポートできないか」と思った矢先、「セールス・イネーブルメント」という考え方に出会ったのです。「これだ」と思い、手探りで取り組みはじめ、結果的に3年くらいでひととおり型のようなものができました。
──長い月日をかけて立ち上げに成功されたのですね。その後2社めに転職されています。
LIFULLでイネーブルメントの立ち上げに成功したものの、「これは本当に自分の身についた能力なのか?」「単に会社の看板や、社内に人脈があるから仕組みがつくれただけではないのか?」という疑問が生じたんです。「もう一度イネーブラーとして立ち上げから運用までをやってみたい」との思いが強くなり、LegalForce(現 LegalOn Technologies)に転職し、再びイネーブルメントの立ち上げを担いました。
そこで自分に力がついていることを認識できたのですが、また新たな思いが芽生えました。当時米国ではすでにイネーブルメントの認知が高まっており、いずれ日本にも来るだろうと確信する中で「さまざまな会社のイネーブルメントに関わって、自分の引き出しをもっと増やしたい」と思うようになったのです。
そのためにはもっとスピード感を上げなければならない、社内の“インサイダー”としてイネーブルメントに関わるだけでは間に合わない、と感じました。だから“アウトサイダー”として、イネーブルメントのコンサルティングに携わろうと思ったのです。
──なるほど。米国と日本の差に焦りを感じたのですね。
はい。とくにコロナ禍以降、企業がイネーブルメントに取り組む必要性はさらに高まっていると感じます。
私がイネーブルメントに関わるようになった時期がちょうどコロナ禍で、リモートワークが一気に広がったのですが、そうなると組織は概念的な“箱”になっていきます。働き方改革の面ではメリットもありましたが、同時に「みんなの思考や行動がバラバラになってしまうのではないか」という危機感を覚えたのです。
たとえば「受注か失注か」「お客様のところに行っているかどうか」という単純な結果はシステム上で見ることができても、実際にその過程でどのようなことを考え、どのような工夫をしたかは見えにくくなってしまいます。
このようなときに、「組織をひとつにするために求心力のある施策」が必要だと感じました。その手段がまさにイネーブルメントだと思えたことが、この道に進んだ大きなきっかけになっていますね。