売り手と買い手のプロセスを一致させるメリットとは?
再三になりますが、セールス・イネーブルメントの基本は、“顧客起点”でのセールスの整理や発想です。
前回の記事「セールス・イネーブルメントの第一歩! 『基本構造』『取り組むべき順番』を押さえる」でも少し触れたように、「営業プロセスの整理」は、イネーブルメントにおいてひとつの核となり最初に手がつけられることが多いですが、多くの企業が「顧客理解」をせずに取り組むため、実際に顧客視点で整理されていることは稀です。
そのため、購買プロセスが理解されておらず、バイヤージャーニー(※)と営業プロセスが一致しないことがほとんどです。実際、「プロセスが完全に一致しているケースは19%だった」というCSO Insightsの報告もあります。
※バイヤージャーニー:顧客が製品/サービスを認知してから、導入を比較検討し購入するまでのプロセス
セールス・イネーブルメントが日本より進んでいる欧米でも、ほとんどの企業が営業と顧客のプロセスを一致させることができていません。しかし、そのプロセスを一致させ、顧客起点の営業ができている場合、受注率が19.9%上昇し、予算の達成率も11.8%程度上昇するという結果が出ています。
“顧客中心”のプロセスで受注率を上げていく
では、「バイヤージャーニーと自社の営業プロセスを一致させる」とはいったいどういうことなのか。
顧客の目線で考えたとき、基本的にはすべての会社に「事業計画」が存在します。担当者の役職にもよりますが、事業計画から出てきた課題を解決するために何かしらのソリューションを検討し、そのうえで製品/サービスを提供している企業に問い合わせているケースがほとんどだと考えられます。
このことを考慮すると、本来、顧客の購買プロセスは「事業計画の策定」から始まります。ただし、事業計画の策定の段階で顧客にアプローチをかけても、顧客は事業計画に沿ったものでないと関心を持たないことが多いです。では、顧客が計画の実行段階に移ったタイミングはどうかというと、顧客は施策に関して自信を持っていて、なかなかソリューションを欲していないケースが多いです。アウトバウンド営業が難しい要因は、このような「売り手と買い手のプロセスの乖離」にあるのです。
ですので、アウトバウンド営業を実施している企業ほど顧客の購買プロセスを理解し、意識的に営業プロセスと一致させる必要があります。たとえば、「事業計画の策定」段階でアプローチする場合、課題提起型の営業をし、顧客の目標達成をサポートすることが有効です。「事業計画の実行」段階においても、実行の初期は顧客自身が施策に自信があるため、顧客の目標に基づいて提案することを意識しなければなりません。
そのほかにも、「顧客が課題を解決するためにツール導入を検討する」段階や、「複数のソリューションを比較検討する」段階など、買い手の購買プロセスはさまざまあります。このようなバイヤージャーニーと営業のプロセスを一致させたのが次の図です。たとえば、営業の「提案」というプロセスは、「評価(ソリューションの比較)」というバイヤージャーニーのプロセスと一致することがわかります。
バイヤージャーニーはどの企業においても似ていますが、細かいプロセスは各企業ごとに違っているため、それらを理解し適応していくことも必要です。
ここまでで、「バイヤージャーニーと営業プロセスが一致した状態」をなんとなくイメージできたでしょうか? 上図のように、顧客(買い手)と営業のプロセスを完全に一致させたものをスプレッドシートなどで作成し、顧客目線での整理ができると受注率が上がります。逆にこれがないと、営業は顧客に場当たり的な提案をしてしまい、失注の可能性が高くなります。また、ロールプレイングをしても曖昧なフィードバックしかできず、再現性のないトレーニングに終始してしまいます。
皆さんの営業組織はどこまで一致させられているか、次の表でぜひ診断してみてください。のちほどご説明しますが、「ダイナミック」のようにシステムを構築できている状態が理想です。
ここからは、バイヤージャーニーのつくり方と、バイヤージャーニーと営業プロセスを一致させる方法を解説していきます。