PLGか、SLGか? 創業者のスタイルに合う戦略を
高田(コミューン) コミューンがSLGを選んだ理由ですが、「commmune」は購買の意思決定をするまでに求められるコミットメントが大きいため、営業が介在しないと売れなかったというのが正直な理由です。また、まだプロダクトがない段階で「これがあったら買います」と言ってくれる顧客や、初期の10倍の価格設定でも価値を感じて購入してくれる顧客がいたことも後押ししました。売るのは大変ですが、単価やセールスサイクル的にもビジネスとして成立すると感じ、結果的にSLGにたどり着いたんです。
Josh(チャネルトーク) 私たちは何度か事業転換を経験しています。「店舗の来客数をセンサーで計測するツール」のエンタープライズセールスに挑戦したこともありますが、向いていませんでした。スケールする方法について考え抜いた結果、「チャネルトーク」にたどりつきました。
Red(チャネルトーク) SLGの苦い経験から「今回はPLGでいこう」と意気込んでいましたが、2年めまではとにかく辛かった。1ヵ月の売上は50万円。フリーランスのエンジニアとして開発したほうが稼げる金額でした。「1,000万円あげるから、このプロダクトを開発して」というたくさんの誘惑も受けながら、最初の2、3年間はとにかく耐えました。
岩熊(コミューン) 聞いてみたいのですが、PLGで成長するためにプロダクト面での工夫はありますか。機能を絞るだとか、みんながやっている領域に参入するとか。
Josh 私たちがこだわったのは、PLGかSLGかよりも、とにかく大きい市場。機能や提供価値が未熟でもビジネスとして成長しているプロダクトをたくさん見てきて、市場さえ良ければビジネスは自然と成長するのだと確信していました。当時は検索広告の市場がトレンドで、ユーザーの80~90%がSMB企業。この市場に最適化されたチャットやCRMがなかったため、SMB企業に最適化した「チャネルトーク」を開発したのです。
Red 今日のイベントは「PLGvsSLG」というタイトルですが、決め切る必要はないと思っています。こんなエピソードがあります。コロナ禍以前、リモートワークを実施したことがありました。エンジニアチームの要望で導入したものの、私はとても不便に感じていて。そんなとき、尊敬する創業家のひとりに言われたのが、「あなたが楽なのが重要。どんな戦略であっても、創業者がぶれてはいけない」という言葉。PLG/SLGも同じように、創業者のスタイルと合っていることが重要です。市場が十分に大きければ結果は出せますから、創業者自身がストレスを感じず実行できる方法を選んでほしいです。
高田 マーケットサイズによるのはたしかにそうだと思います。現在、日本における従業員数100名以下の会社は約360万社。一方、100名以上の企業は5~6万社です。100名以下の市場なら1社1万円で600万円の売上になりますが、100名以上の市場では1社60万円で販売しないといけない。マーケットの規模だけ見ても、「日本でPLGはうまくいかない」というのは幻想かもしれません。
高田 また、自分がストレスを感じない戦略を選ぶのも共感しますね。コミューンが2022年にアメリカへ進出したとき、PLGを選んだんです。一切セールスしなかったら、だんだんムズムズしてきて(笑)。結局アウトバウンドアプローチを始めて、日本と同じSLGにしました。PLGでも成功していたかもしれませんが、たとえるなら富士山を静岡側から登りたいか山梨側から登りたいか、ゴールではなく登り方の問題なのかな。
Josh PMF(Product Market Fit)、EMF(Entrepreneur Market Fit)という言葉があります。プロダクトと市場だけでなく、創業者と市場がフィットしていることも重要ですね。