ビッグマウスな営業担当者はなぜ失注したのか?
フォーキャスティングの勘所を押さえよう(前編)で紹介した事例
BtoBでセキュリティ製品を提供する会社の営業担当者が、製造業の顧客にアプローチしていました。担当は中堅でキーマンとの関係づくりを得意にしています。
1月末の時点で提案、予算、必要性のすべてにおいて顧客キーマンとの確認と合意ができており、残すは「何でも通す」部長の決裁だけだったため、この営業は3月末に受注できるとコミットしていました。
2月中旬には会食の機会も得て、手応えを感じていましたが、その後の緻密なフォローも怠っており、3月中旬になって、実はそのキーマンから部長への上申プロセスを進めてもらえていなかったことが判明します。
そこから急いで上申してもらうも、3月下旬に「他の商談を優先するので今期は購入を見合わせたい」との部長からの返事により、来期への持ち越しとなってしまいました。
ところがそれで終わらず、4月にはそのキーマンが人事異動で転出。5月上旬に新しい担当者から再びアプローチするも、部長からは必要性なしとの判断で、下旬に失注が確定してしまいました。
前回は、ある大手メーカーにセキュリティ製品を提案していた商談の失注が確定したところで話が終わりました。キーマンとの会食を終え、1月末に「コミット」と報告していた固いはずの商談が、3月中旬に「ほかの商談を優先するので今期は見合わせ」と言われてしまった。こんなはずではなかったはずです。今回はその答え合わせから始めましょう。私がマネージャーだったら、この営業担当者には次のようなアドバイスをします。
アドバイス①複数のステークホルダーを押さえる
この営業がアプローチしていたメーカーは、意思決定プロセスの複雑な大企業です。キーマン1人の感触が良くても、複数のステークホルダーを押さえておくべきでした。とくに、決裁権限を持つ役員の支持を得ることが重要です。そうすれば、たとえキーマンが担当を外れることになっても受注できていたかもしれません。
アドバイス②優先度を上げてもらうよう提案価値を高める
キーマン自身は意欲的だったと思いますが、こちらの期待値に沿うほどの優先度が高まっていませんでした。「来期にはやりたい」というコメントは、リップサービスの可能性もあります。今期に受注するためには、提案内容を見直す必要があったと思います。
アドバイス③“コンペリングイベント”をつくる
あまり馴染みがない言葉かもしれませんが、コンペリングイベントとは、「顧客にとって購入しなければいけない状況」を指します。この企業の場合、セキュリティ強化の必要性自体は認識していましたが、3月末までにやるための“強い理由”には欠ける状況でした。今期中に購入しないと発生する企業リスクを認識してもらう提案であったり、特価提案することで顧客にとって今期中に購入すべき理由をつくったりすることも必要なアクションです。
アドバイス④コミットに慢心することなく、アクションを継続的に行う
早い時期に安心してしまい堅実なフォローを怠ったのも問題だったでしょう。確度が高くなってくれば、失注リスクを低減するアクションが必要になりますが、キーマンとの会食以降、この担当者は目立ったアクションをとっていません。キーマン以外に会いに行く時間はあったはずですが、待ちのスタンスのままでした。アドバイス⑤「理想的な顧客プロファイル」との合致度を確かめる
そもそも、セキュリティ製品を売る相手として適切だったかも見直すポイントかもしれません。仮に金融業の方が理想的な顧客プロファイルの商材だったとしたら、自分のテリトリーだからと製造業に提案しても商談の成約率は高くはならないでしょう。当初の営業戦略に立ち返り、適切な顧客セグメントに適切な商材を販売していくべく、営業リソースの割り当てを考える必要性もあります。アドバイス⑥営業担当の特性を押さえる
これは担当者ではなく、マネージャーの反省点です。この担当者のフォーキャスティングは楽観的な傾向があることを加味しておく必要があったでしょう。実際に、このケースのように楽観的な「ビッグマウス担当者」もいれば、いつも慎重な「コンサバ担当者」もいます。営業担当ごとの性格は個性であり変えられませんが、個性に合わせたコーチングはできたはずです。