劇的な市場変化で、リテンションモデルの重要性が加速
高橋(HiCustomer) まずは、鈴木さんのご経歴をお聞かせいただけますでしょうか。
鈴木(花王) 新卒で入社してから30年以上を花王で過ごしていますが、「花王人生」は大きく3つの時代に分かれます。
ひとつめは、花王のグループ会社である花王グループカスタマーマーケティングです。流通に近い立ち位置でマーチャンダイズの研究や提案といった仕事を約10年経験しましたが、POSデータ分析や棚割りシステムの開発など、商談に不可欠となるIT関連の業務に関わっていた経験は今にもつながっています。
その後2000年ごろから数年間は、社内公募で採用された新規事業プロジェクトを立ち上げ、ここでもやはり今につながるダイレクトマーケティングの実践を経験しました。花王本流のサプライチェーンとは一線を隔したかたちで、製品開発から生産、物流、商談、マーケティングまでトータルで携わり、自社ECを立ち上げるなど、今振り返るとやっていたことは、昨今言われるD2Cの先駆けだったと思います。
そのビジネスを遂げたあとは、本社のマーケティング開発部門に所属し、CRMやロイヤルティマーケティングなどの業務開発に従事しました。大手ECプラットフォーマーの存在感が増す時代となり、「インターネットを介した顧客とのコミュニケーションや新たな販売チャネルの開拓などが重要になってきたよね」という空気が漂う中で、花王製品のファンと直接つながる「花王プラザ」という会員コミュニティを立ち上げ、ロイヤルティ向上のメカニズムを探求するなどの取り組みを試行しました。
直近では2018年ごろから社内DXをリードする「先端技術戦略室」という部門を兼務し、2年ほどの勉強期間を経て、2021年にコンシューマープロダクツ事業部門内に新設されました「DX戦略推進センター」に籍を移すこととなりました。現在私が担当している部署は、同センター内の「カスタマーサクセス部」です。
高橋 いずれの時代も、現在の役割につながる部分があったということですね。時代の流れに寄り添いながら顧客と個別につながることを試行される中で、現在のかたちでカスタマーサクセスにフォーカスをしていった課題感やビジョンはどのようなところにあったのでしょうか。
鈴木 花王のコンシューマープロダクツ事業には「化粧品」「ハイジーン&リビングケア」「ヘルス&ビューティケア」「ライフケア」の4つの事業体がありますが、中でも化粧品は、元来1人ひとりとのコミュニケーションを大切にしているカテゴリーです。しかしながら、顧客の買い場は、店頭だけでなくECチャネルへと広がってきています。さらにその傾向はコロナ禍もあいまって加速していることを真摯に受け止めますと、オンライン上でも顧客と向き合える接点、購買体験の場をしっかりとつくることが必要でした。
「DX戦略推進センター」が新設された背景の一端がここにあります。認知から検討、購買、リピートへと進む生活者の行動プロセスの大半がオンライン上へシフトし、コロナ禍が多くの生活様式のリモート化を促進している現実に迅速に適応するためには、我々自らがデジタルを味方と捉え、これまで以上に顧客とのコミュニケーション力を磨くこと、まさにカスタマーサクセスを体現していくことが必須と考えたわけです。