営業育成のアプローチの大きな転換
4つの視点を変化させよう
――イネーブルメントに取り組む組織は、結果的に営業育成のアプローチを大きく転換することになると思います。視点を変えるべきポイントを教えてください。
大きくは4つあると考えています。ひとつめは、「自社起点から顧客起点に」変えることです。前提として、イネーブルメントの大目的は“持続的な成果創出”です。その成果はお客様から得られるもの。営業活動は、お客様の意思決定プロセスそのものであり、その流れに整合させることが必須となります。私たちも営業フェーズを前進させるために「スキルマップ」の活用を提案していますが、自社視点ではなくお客様視点でフェーズを前進させるために必要な行動や知識・スキルを身につけることで、成果につながると考えています。つい「会社として何に取り組むか」と考えがちですが、「お客様の行動を変容するためには何をすべきか」と再定義・再認識するだけでも、必要な知識やスキルが変わる可能性があります。この顧客起点が腹落ちできていないと、どんなにトレーニングを行っても、「会社のため」が強化されるだけになってしまいます。
ふたつめは、顧客起点に基づく営業プロセスを組み立てたら、「育成=属人」ではなく「データドリブンなもの」だと意識変革をすることです。もちろんOJTも大切で残っていくと思いますが、加えて「データを活かす視点」が必要です。たとえば、マネージャーが「飛び込み営業を毎日50件やって得た知見・経験」を持っていたとしても、昨今のように相手に会えない時代では活かすことができません。当然ながら育成テーマにも属人的なバイアスがかかる可能性があります。しかもそのバイアスが大きな組織で人数が多ければ多いほど大きく影響してしまう。
ここを見誤らないためには、ひとつめで定義した「顧客起点のプロセス」ごとに客観的な“データ”をしっかりと分析することが重要です。そこから改善すべきは「ヒアリング」か、「クロージング」なのかと課題を捉え、打ち手を考えることが大切です。さらにプロセスに紐づくスキルを数値化・可視化することでメンバー自身の強み弱みを客観的に捉え、マネージャーとの1on1などで認識をすり合わせることができます。それが叶えば、マネージャーも感覚値ではなくデータに基づいたアドバイスができるようになるでしょう。「何を育成すべきか=What」の標準化ができれば、属人的なバイアスや誤差は解消され、「どう育成すべきか=How」に注力することができます。
――「どう育成力を上げる」か、そこにも視点を変えるポイントがありそうですね。
まさにそれが3つめです。営業教育は「全社共通プログラム」ではなく、より「営業に特化した実践的なプログラム」に変えるべきでしょう。産労総合研究所の2019年の調査によると、キャリア研修、幹部研修など、人事主体の教育かつ全社に共通したテーマと比較すると、営業実務に特化した教育は想像以上に優先順位が低く、営業育成は現場任せのOJTメインとなりがちです。しかし、営業力を高めるには、営業シーンごとの成果につながる実務的なトレーニングが必要です。たとえば、フィールドセールスだけでなく、インサイドセールスでも、「明日から実践できるコールの仕方」や「ナーチャリングの仕方」など実務で使えるイネーブルメントプログラムが求められています。これら営業用の教育・研修の提供者を「人事部門主導からイネーブルメントの専門チーム」に変えること、それが4つめに意識すべき変更ポイントになります。