共創の「複業」で営業提案の視野が広がる
――2018年から共創の取り組みを進められているとのことですが、200名のカタリストアサイン含め、OPEN HUBを準備する際に大切にしていた点があれば教えて下さい。
これまでの弊社はどちらかと言うと、縦割りの組織でした。対峙するお客さまの業界によって、「流通業」「金融業」「製造業」と営業組織が分かれていたり、営業部門とは別のプロダクト部門が存在したりしていました。OPEN HUBは全社的な取り組みですから、社内で横ぐしの連携が必要になったのです。
つまり、これまでのように「○○業界に特化した知識」だけがあれば良いのではなく、「横の組織と連携し、知識やアセットを有効活用できる」人材が求められるようになりました。その点を意識して人を集めていきましたね。加えて、カタリストは全員「兼務」で所属するようになっています。あえて、本来の業務と並行して新しい領域の探索に取り組んでもらえるようにリソース配分できる体制をつくっています。
――あえて「複」業のように取り組まれているのですね。コロナ禍以降、「以前の営業スタイルは通用しない」と言われることも多いですが、「お客さまとの共創」は、まさに営業組織こそ意識するべきなのでしょうか。
私は既存の営業スタイルもビジネスには必要で、あくまでも共創との両輪であることが重要だと考えています。たとえば、弊社のカタリストも共創を経験することで、既存ビジネスでも、エンドユーザーを意識した「BtoBtoX」の考え方ができるようになっているんです。
一例ですが、我々の既存のビジネスでお客さまにメールシステムを提供する際、これまではまず、目の前にいる情シス担当の方の成功に着目してきたと思います。しかし、新しい領域に乗り出す際にはそのビジネスが成功するのかを見定めるために、「お客さまのお客さま」までを満足させられるサービスをつくる必要が出てくるんですね。そうなると、自ずと「目の前のご担当者」「お客さま企業の従業員1万人」だけではなく、そのサービスの先にいる「メールを受けとる100万人にとって良いサービスか?」という点まで思考するようになるわけです。これが本業のビジネスでも活き、広い視野でお客さまに提案ができるようになっていきます。
DNPらと取り組む共創の例
――よりお客さまのビジネスの成功に目が向くようになっていくんですね。実際にNTTコミュニケーションズさまの営業組織がチャレンジしている共創の事例についても教えてください。
大日本印刷さま(以下DNP)は、DXによって商品・サービスの価値を高め、生活者に新しい買い物の体験を提供する「ストアDX」を進めています。
従来、店舗内での生活者の購買行動や商品への反応を把握することは困難でしたが、DNPは店舗内にマイクとカメラを設置し、接客時の会話データと来店客の行動データを取得して、生活者の潜在的な購買欲求を解析・可視化することを目指しています。2019年11月に東京・渋谷区で実施した、最新のIoTを体験できる次世代型ショールーミング店舗「boxsta」での実証実験での結果を踏まえて、2021年5月に「DNP店舗内CX解析サービス」のトライアルパッケージの提供を開始しました。
「DNP店舗内CX解析サービス」では、NTTコミュニケーションズの集音デバイス(マイク)や音声データ分析エンジン(COTOHAシリーズ)の活用についても検討しており、店舗内における接客会話から取得する音声データから、顧客のインサイトの抽出・可視化・解析を行っています。
また、このほかのお客さまとはサステナビリティ観点での共創を進めています。食品流通プロセスに弊社のブロックチェーン技術を活用し、製品の安全性を担保しながら可視化することによって、食品ロス防止にもつなげていくビジネスへと成長させていきます。
我々は、OPEN HUB Baseという共創コミュニティ(2021年10月現在、4,100名の会員)を持っていますから、プロジェクトによってはコミュニティの会員の方々に現在考えているビジネスのコンセプトの共有を行い、意見をもらうことも可能です。
そうすると、「エンドユーザーとしての意見」はもちろん、「共感したので、一緒にビジネスを育てたい」という声や各業界の知見をもとに「○○業界ならこんな使い方が可能で、こんなユーザーに刺さるはず」という仮説も上がってきます。どの領域で発展できるかを素早く見極めるという意味でも、今後の新しいビジネス立ち上げは1社の力ではなく複数のお客さまや共感者が集まって初めて実現できるものだと考えています。
もちろん、企業間の共創にはビジネスアイディアや権利に関する課題もありますが、共創に関わる契約関連の知見も蓄積されていきます。今後、OPEN HUBは包括的な意味で共創にチャレンジしやすい場所へと成長していく見通しです。