少人数で運営するインサイドセールスチーム
2015年に設立されたNewsTVは、企業や官公庁を対象とした動画の制作と独自の広告配信プラットフォームを用いた広告配信を担う「ビデオリリース」というサービスを提供している。累計3,000本以上の動画制作実績から蓄積されたナレッジを持つ同社のサービスは、法人向けクラウド名刺管理サービスを提供するSansanや化粧品メーカーのアンファーなどの大手企業にも利用されている。広告主の新規・既存商品プロモーションやキャンペーン、イベントに際して依頼を受けることが多く、制作した動画は広告配信に加え、二次利用のオプションを追加することでウェブサイトやメルマガにも活用することが可能だ。
本講演に登壇した酒井葉子氏は事業会社で営業やマーケティング、広報を経験したのち、2018年に広報とマーケティングの担当者としてNewsTVへジョインした。創業当初は社長が兼任していた同職を、企業規模の拡大に伴い専任部門を設けて分担したかたちだ。
2019年の7月、「インサイドセールスに挑戦しよう」と新しい取り組みへのチャレンジを開始した。手探りのなかで酒井氏がまず取りかかったのはBtoBセールス・マーケティングのバイブルを読むこと、そして並行してSNSなどのオンラインメディア等でも情報収集を続け、インサイドセールスを含めた営業組織の理想的な流れと自社の現状を照らし合わせた。
ベンチャー企業として走り出し、徐々にメンバーが増えつつあった当時は目の前の数字を積み上げるために全員がノルマを追っていた一方、中長期的な戦略立案やメンバー間の情報共有に課題を抱えていた。見込み顧客の管理と把握は各営業担当者に任され、案件化に至るプロセスはブラックボックス化していたのだ。そんな状況で、インサイドセールスの立ち上げを担うことになった酒井氏は、当時の心境をこう語った。
「組織を変えることは難しいですが、まずは参考になる組織の真似から始められるはずだと思っていました。営業担当者がどんなクライアントにどのようなアプローチをしているのか、細かい履歴が共有できる仕組みをつくり、みんなでフォローアップできるようにすることがインサイドセールスの理想形に続く近道だと考え、体制の見直しを行いました」(酒井氏)
MAツール導入後ナーチャリング経由の売上が170%増
酒井氏の入社によって、それまで営業部門が行っていたリード獲得の業務をマーケティング部門で行うことができるようになっていた。情報収集から得た理想形へ近づくためにはそこからさらに、見込み顧客を育成するところまで酒井氏の在籍するマーケティング(インサイドセールス)チームで実施し、営業部門がアポ獲得以降の商談フェーズに注力できる体制を整える必要があった。
「理想としてはアポ獲得もこちらで引き受けたかったのですが、一気に組織を変えるためには相当なパワーを要するので、実現可能な範囲で目標を設定しました。優先度の高い架電とメルマガ配信へスピーディーに取り組むため、導入したのがMAツールの『SATORI』です。見込み顧客の情報を自動的に可視化し、共有可能な状態にできる点が魅力的でした」(酒井氏)
多機能な「SATORI」を用いてまず酒井氏が取り組んだのはリード情報の一元管理だ。コロナ禍以前のNewsTVはオフラインのイベントや展示会に数多く出展し、年間4,000から5,000の見込み顧客と対面していた。イベントで会った見込み顧客が過去にサイトから資料をダウンロードしているかどうかなど、“タグ”機能を用いてデータを統合した。酒井氏は「こんなにかんたんに一元管理ができるのかと感動した」という。
一度のイベントやセミナーで獲得した数百というリードに対し、以前は手動で個別にメールを送っていたが、「SATORI」を導入したことで獲得した当日中にメールを配信でき、即時フォローを実現した。さらに、ナーチャリングを目的としたメールマガジンも「SATORI」によって画像や動画を盛り込めるようになり、リッチなコンテンツで受け手の心理的ハードルを下げることに成功。その結果、リードナーチャリング経由の売上が飛躍的に増えた。「SATORI」を導入した2019年10月と2020年同時期の数字を比べると、コロナ禍にも関わらずナーチャリング経由での売上は170%に増加していた。
「なぜもっと早く導入しなかったのかと思うくらい、効果を実感できました。情報の共有がこんなにもメンバーの意識を統一するのかと、大きな気づきを得られました」(酒井氏)
インサイドセールス発足直後は目立った成果が現れにくく、「上手くいっていないのでは」との声が周囲から上がったこともあったという。それでも、NewsTVが展開する事業の特性上、シーズンごとに依頼を受けることも多いため、翌年もリピートしてもらうためには年間を通した継続的なコミュニケーションが必要となる。新しい組織を立ち上げてすぐに効果が出ない場合も見切りをつけるのではなく、継続することが肝要だと酒井氏は強調した。
コロナ禍でフィールドセールスがインサイド化 組織の壁は自ら壊す
「SATORI」を導入し、過去にイベントで接触したリードに架電アプローチを仕掛けてアポにつながるなど、インサイドセールスが軌道に乗り始めた矢先にコロナ禍が到来した。対面での商談が叶わなくなり、相手企業がフルリモートへ切り替わったことで担当者と電話がつながらなくなった。重要なタッチポイントであった展示会などのBtoBイベントもオンライン開催へと切り替わり、参加者に声をかけて立ち止まってもらうプッシュ型の手法が封じられてしまった。
ここで酒井氏が行ったのは、できることとできなくなったことを整理したうえで改めて業務の優先順位を決めることだ。他社との共催セミナーや個別の相談会、電話など、オフラインでできることが制限された分、MAツールの活用がより重要な意味を持つようになった。セミナーをオンラインに切り替えたり、ナーチャリングの手法を変えたりと新しい取り組みを検証する中で、2020年の夏から秋にかけてメルマガを活用した顧客コミュニケーション量を大幅に増やした。リモート体制によって電話という手段での接点が持てなくなった見込み顧客に、チャネルを変えてメルマガで情報を届けたところ、顧客からの問い合わせが発生するなど、案件化に成功した。
コロナ禍で組織の体制にも変化があったという。オンラインで今できる顧客接点を創出する取り組みをチーム内だけでなく、営業部署とも連携してフォローする流れが生まれている。
「もともと私を含む2名で広報とマーケティング、インサイドセールスを担当していたので、コロナ禍を機に他部署も含めて業務を効率的に分担できるようになったのはありがたいです。現在も検証を繰り返しながら成功パターンの確立に向けて取り組んでいる最中です」(酒井氏)
2021年の方針として、酒井氏は「ゴールを見失わない」「組織の枠は自ら壊す」というふたつを掲げた。業務の境界を部門で線引きするのではなく、将来の見込み顧客へのフォローを厚くするという目的のためにやるべきことを導き出し、それぞれのタスクを担う部門がたまたまマーケティングやインサイドセールスだった、というマインドを保てていれば、コロナ禍のような緊急事態にも柔軟に対応できると酒井氏は語った。
さらに酒井氏は「誰に何を届けるのかの再定義」も重要だと強調した。メルマガを送る際には、送るべき相手、配信したメルマガを開封してくれる相手がどのようなターゲットなのかを再認識し、適切なコミュニケーションを設計する必要がある。また、オンラインとオフラインを融合させたハイブリッド体制を整え、企業ごとのフェーズによってはインサイドセールスチームの発足やMAツールの導入など、便利で新しいものを積極的に取り入れる姿勢こそが重要だと続けた。
「私たちはインサイドセールスを立ち上げてからMAツールを導入しましたが、それぞれの企業や時代の流れに応じて必要なものは変わると思います。大事なのはゴールにいるお客様の姿ですから、そこを見失わずに組織も個人も変わり続ける勇気を持てると良いのではないでしょうか。新しい取り組みには苦労がつきものですが、真摯にお客様へ向かっていく気持ちがあれば得られる糧は必ずあるはずです。ぜひ、積極的にチャレンジしていただきたいです」(酒井氏)