フェンシングで身につけた俯瞰と主観の行き来がビジネスに活きる
會田 太田さんに聞きたいことがたくさんあります。まずは、国際フェンシング連盟の副会長になられるという快挙を達成された件ですが、やはり太田さんのプレゼン力の高さから得られたのでしょうか。
太田 どうでしょう(笑)。ただ、僕が副会長になるまで日本人は国際フェンシング連盟の理事になったこともありませんでしたし、加えてこの年齢(就任時の2018年当時33歳)で着任したことも異例のことでした。オリンピックが日本で行われること、前任の副会長がアジア人だったことも着任を後押ししてくれたと思いますが、あえて言えば「ポジションがどうしても欲しい人」にはこのような機会は巡ってきづらいと考えられます。ポジションを得ることを望むのではなく、引いた目線でいまフェンシング業界にとってなすべきことを客観視しつつ、意見できる部分が評価されたのではないでしょうか。
會田 なるほど。初めて太田さんとお話した際に感じたのは、人間関係構築が非常に上手な方だということです。たとえば、審判の「欧米びいき」に対してもその場で抗議するだけではなく、普段からきちんと関係を築けるようなコミュニケーションを意識するとおっしゃっていたことが印象的でした。どんな人ともうまくわたりあう秘訣を教えてほしいです。
太田 會田さん、ごきょうだいは?
會田 姉と弟がいます。
太田 バランス良いですね。やはり上に兄弟がいると甘え上手になりますよね。僕は兄と姉がいて末っ子でしたから、自分がどうすれば可愛がられるか経験しながら学んだと思っています。一方、食卓にある唐揚げの数が少ないときは、年上のきょうだいとの不利な競争にも参加しなければなりません。末っ子として年長者とわたりあってきた自分が根幹にありますし、きょうだい構成は自分をかたちづくった非常に重要なものだと個人的には捉えています。
加えて、フェンシングという自分が主体となりながら対戦するスポーツにおいては、対戦相手からどう見えているかという目線、さらに言えば審判からはどう見えるかという俯瞰の視点が身につきました。たとえば、試合後にビデオで見るのは俯瞰ですが、試合中にこの技をやろうと考えるのは主観です。この主観と俯瞰を交互に入れ変えながら戦うことが得意になったあとは、ビジネスにおいても自分がやりたいことは果たしてマーケットからはどう見えているだろうか? という視点で物事を考えられるようになりました。
副会長の話に戻ると、俯瞰で見ればアジア人が欧米発祥スポーツであるフェンシングの世界に乗り込んで意見しようとすることは、柔道の国際連盟で欧米の方から変化を求める発言が出るようなことです。「こちらの国技なのに」と思ってしまうアイデンティティが存在するという前提で、自分に求められている役割を分解して考えることが大事ですよね。僕は、自分がやりたいことをそんなに「ゴリ押し」しないほうです。もしかすると「ザ・ベンチャー」の精神とは違うかもしれません。流れが悪いなと思ったら引く勇気も必要ですし、撤退するラインはいつも決めていますね。