キャリアの7割がインサイドセールス/イネーブルメントのきっかけは
山下 「イネーブルメント」の事例は日本ではまだまだ少ないです。本日は急成長中のSmartHRさんの取り組みについてお話を伺わせてください。まずは「イネーブラー」である工藤さんのキャリアから教えていただけますか。
工藤 新卒で入った証券会社では1日100件電話して、ビルを上から下まで回るような営業をしていました。実は当時からベンチャーに興味があったのですが、新卒で飛び込む勇気がありませんでした。加えてベンチャーから大手には転職することはないだろうと、あえて1社目は大手証券会社を選びました。金融商品を販売できる営業力を身につけたかったというのも理由のひとつです。ある程度の実績を出せるようになったタイミングでfreeeに転職し、インサイドセールスになりました。実はキャリアの7割くらいはインサイドセールスなんです。その後、セールスオペレーションを整えることにも携わりました。
SmartHRには、ひとりめのインサイドセールスとして入社しています。8ヵ月後に営業企画の組織ができたので、そこへ移りセールスのためのツールやオペレーション整備に取り組み、2019年7月から本格的にセールス・イネーブルメントと冠して営業支援を始めています。
山下 じっくりと営業の現場を理解し、インサイドセールスに幅を広げながらSaaSモデルを学ばれていらっしゃる。営業の経験がコアにあるんですね。
工藤 キャリアの軸は営業だと思っています。いまだに直接自分で営業したいなと思うくらいです(笑)。
山下 SmartHRさんにイネーブルメントが必要になった背景について教えてください。
工藤 セールスチームの人数が増えてきたことが前提にあります。これまではいわゆる属人的なやり方で個性に任せてセールスをしてもらっていたのですが、競合が出てきたり、プロダクト自体が複雑になったり、エンタープライズのお客様が増えてきたり、営業プロセスに大きな変化が起こったことも背景のひとつです。イネーブルメントの目的はふたつでした。新しく入社したセールスのメンバーをいかに早く立ち上げるかと、将来的な営業力の底上げです。潜在的には課題があったはずで、それらが顕在化してきたタイミングだったのでしっかりと仕組みをつくることに決めました。
山下 成長の中で人員も増えるし、製品の難易度も上がっていきますからね。具体的なスタートのきっかけはトップダウンとボトムアップのどちらだったのでしょう。
工藤 両方です。経営課題としても人員増のなかで営業力強化の仕組みが必要だという思いがあったのと、実際に現場の営業に対し、OJTを通して育成していたマネージャー陣のなかにも当然課題感があったからこそ進んだ感覚です。当社は権限委譲がかなり進んでいるという前提ではありますが、トップダウンで強制された印象はなく、COOやマネージャーラインとすり合わせたうえで実行が決まり、メインでプロジェクトを回すのが私になったという経緯です。
山下 イネーブルメントの取り組みを支援する側からすると、「良い取り組みだとは思うけど社内理解、推進にてこずりそう……」という声をいただくことが多いですが、御社はすんなりとスタートされていますね。経営からの明確なオーダーや「いつまでにこの状態にしてほしい」という期待はあったのでしょうか。
工藤 ある程度は「経営が期待する状態」も提示されていたのですが、正確なロードマップや、どこまでできるかということは現場にしかわからないことも多いので半年スパンくらいで現実的な目標はこちらで立てるよう、任せてもらいました。