成功事例:「顧客ニーズDB」の構築がもたらしたパイプライン増加
ある企業の事例をご紹介します。その企業は事業部ごとに独立してビジネスを展開していましたが、シナジーを生むために、顧客の業界軸で横断的な「アカウントチーム」を組成しました。
しかし、当初は情報の共有がまったく行われていませんでした。商談ログはSFAに残されず、メールやスライド、Excelに散在。アカウントチームが提案仮説を立てようにも、情報収集すらままならない状況でした。
そこで取り組んだのが、全事業部で毎日作成されていた活動報告を収集して「顧客ニーズデータベース」を構築することでした。これを横串で分析した結果、業界やビジネスモデルごとの提案余地が可視化され、アカウントチームの仮説精度が向上。結果として、商談パイプラインが大幅に増加したのです。
現在は、受注期間の短縮や受注率の向上、さらにはコールセンターやカスタマーサクセスのデータも統合し、商品開発へのフィードバックにまで挑戦しています。
まずは手元にある活動データ(Work Log)を集め、分析環境をつくる。この一歩が、顧客接点全体を統合していくための確実なステップとなります。
顧客の成熟度で見極める「AIと人間の役割分担」
今後の展望として、今我々が挑戦しているのが、複数の専用AIを統括する「司令塔AI(AI Agent)」の活用です。SFA、ERP、グループウェアといった独立したAIエージェントに指示を出し、それらの結果をまとめて回答するマルチエージェントシステムです。
では、このシステムをどのように使い分けるべきか。アカウント(顧客)の成熟度モデルで考えてみましょう。
EYではアカウントを7段階の深耕度で評価します。Level1は、まだコンタクトしたことがないアノニマスな「リード顧客」、Level2は、コンタクトを始めたばかりで、まずは1件の受注を目指す「接触開始顧客」、Level7はすでにBig Dealを獲得し深く関係性がつくれている「ダイヤモンド顧客」といった形で定義していきます。
たとえば、すでに深い関係性があり、営業が密着している「ダイヤモンドアカウント」は、現時点では、人間による高度な判断と関係構築を優先すべき。AIの司令塔は不要です。
司令塔AIがもっとも効力を発揮するのは、取引が始まり拡大の余地があるLevel3の「未開拓アカウント」、Level4の「発展途上アカウント」でしょう。このアカウントを担当する営業のスキルレベルを底上げし、提案の「適射度」を高めることで、収益へのインパクトを実感しやすいのではないでしょうか。
最後に、AI活用を設計していくうえでの注意点をお伝えします。
近年はABM、MA、SFAといった各種ツールが機能領域を拡大し、それらが重複することで過剰投資につながるケースが見られます。大切なのは、それぞれのツールの役割を明確に切り分け、そのプロセスの中で「どこにAIを組み込むか」を定義することです。
営業は限られた時間の中で、適斜度の高い活動、すなわちバイヤーイネーブルメントを行わなければなりません。そのためには、顧客データの整理統合が必要不可欠です。なかなか骨の折れるプロセスですが、AIを導入するうえで、避けてはとおれません。
「正しい顧客ニーズの把握が、戦略を正しくする」。この原則を念頭に、まずは身近なデータの活用から着手してください。
