既存事業の営業との決定的な違い
新規事業の営業を考えるうえで、まず押さえておきたいのは、既存事業の営業と同じ発想・同じ組織・同じ評価軸では、ほぼ確実にうまくいかないということです。ここで言う違いは、単に売る対象のプロダクトが新しいかどうかというレベルではなく、営業が立っている土台そのものが大きく異なっています。
既存事業の営業は、多くの場合、ある程度確立された事業基盤(土台)の上で成り立っています。すでに市場で認知されたブランドがあり、一定の顧客リストと導入実績があり、提供価値も価格帯も大きく変わりません。その中で、いかにシェアを伸ばし、アップセル・クロスセルを成功させるか。いわば「決められた勝ち筋を、どれだけ磨き込めるか」が問われる世界です。一方で、新規事業の営業が置かれている環境は、その真逆に近いものです。プロダクトはまだ世の中に知られておらず、誰が本当のターゲットなのかも曖昧で、価値提案(Value Proposition)や価格すら動的に変化していきます。ここでは「勝ち筋を磨く」のではなく、「勝ち筋そのものを見つけにいく」ことが求められます。
図のとおり、既存事業の営業は、ブランドや過去の実績によってある程度の信用を前借りしながら、顧客との関係性を深めていくことができます。紹介やリピートも起こりやすく、提案の入り口に立つまでのコストも相対的に低い状況です。
一方、新規事業の営業は、信用の前借りがほとんど効きません。むしろ「なぜその会社がこのサービスを?」といった懐疑からスタートすることすら珍しくありません。
ターゲット顧客の捉え方も違います。既存事業では、業種・規模・部門といった、ある程度セグメントが明確化されています。一方で新規事業では、当初想定していたターゲットが外れることが日常茶飯事です。
最初に想定していたターゲットが実際には微妙に違っていたというケースは非常に多くあります。たとえば大企業向けと考えていたサービスが中堅企業のほうが導入意欲が高かったり、現場が課題を感じているはずだと思っていた価値が、実は経営層の関心に直結していたりするケースです。こうしたズレの発見が連続しながら、ターゲット像が営業活動を通じて徐々に鮮明になっていきます。
