組織を変えるマネージャーの「ひと言」
AIが営業組織に根付くための前提条件として、組織文化と個人の自発性の重要性が議論された。
吉田氏は、全社員28万人、うち営業4,000人という巨大組織の中でAI活用を広げた日立製作所の取り組みを紹介した。
ひとつは、営業のトップ層が「毎日AIを使うように」と号令をかけ、活用する様を社内外に公開することで、トップダウンによる熱を伝播させたこと。もうひとつは、50人規模の北海道支社をモデルケースとし、ボトムアップで成功事例を他支社へ共有して、全社的な機運を高めたことだ。この相乗効果により、AI活用を全社的な文化へと拡大していったという。
また、宮澤氏が提示した「好奇心」も、AI活用を推進するうえで重要な要素だ。KDA発足前、AIを使って実現したいことを社員にたずねたところ、3,000件程度の回答が集まった。こうした社員の自発的な欲求が、KDAの成功につながっているという。吉田氏も、元野球選手の営業担当が個人的関心からAIを学び、社外でAI活用のコミュニティをつくっていると紹介。自発的な個人のパッションが組織を変える起爆剤となることも示唆された。
さらに吉田氏は、AIネイティブな文化をつくるには「今できるなら、今すぐやる」というマインドが不可欠であるとして、とある商談のエピソードを紹介した。商談中、議事録を書くために下を向いていた営業担当者に、吉田氏は、AIで議事録を作成することを提案。営業は顧客にAI使用の許可を得ることをためらっていたが、その葛藤を乗り越えてAI議事録を取り入れた結果、営業は顧客の顔を見ながら次のアクションや顧客の満足度に集中できるようになったという。
株式会社 日立製作所 AI CoE Generative AIセンター 本部長
兼 Chief AI Transformation Officer 吉田 順氏
このエピソードを受けて、塩谷氏は「AIを使えば良いじゃないか」というひと言をマネジメント層が言えるかどうかが、AI活用文化が根付くための分水嶺となると指摘。そこでモデレーターの半澤氏は、業務変革を進めるマネジメント層は、現場の状況をどこまで解像度高く把握すべきかという問いを投げかけた。
吉田氏は、商談同行や懇親会などの地道な手段も有効であると回答。一方、宮澤氏は、マネジメントが「必ずしも自分自身が現場やAIに詳しくなる必要はないが、邪魔だけはしてはいけない」とコメント。この姿勢が、現場の拒絶反応を防ぐことにつながると述べた。
「何」よりも「誰が、いつ」 AI時代の営業が担う役割
セッション終盤、営業は今後、AIとどう向き合っていくべきかという問いが投げかけられた。
宮澤氏は、AIエージェント同士で商談が進み、人間が最後の「詰め」を担当する時代が遠くないと指摘。AIによる自動化と、人間が担う付加価値創出の両面に目を向け、未来を見据える必要があると述べた。
同様に吉田氏は、SFA入力や提案書作成といったタスクはAIが担うため、提案が均一化すると予測。その中で重要になるのは「この人信じられるか」という人間的な要素であり、何を言うかより、誰が言うか、いつ言うかが問われる時代になると論じた。
ふたりの意見を踏まえ、塩谷氏は、AIは営業が本来感じるべき「顧客と話す喜び」を支えるためのものとした。この本質的な活動を純粋に行える環境づくりこそが重要だと語った。
登壇者のコメントを受けて半澤氏は、AIは単なるツールではなく、ドメイン知識と専門性によって培われた「人間らしい営業力」を引き出すパートナーとなると総括。セッションを締めくくった。

