事業全体を最適化 “攻めの営業”へ転じるDX推進
安部 改革を進める基盤として、どのようなDXやAI活用に取り組まれたのでしょうか。
菊地 これまでは、SIerとしてお客様からRFP(提案依頼書)をもらってから動き出す“受け身”のビジネスが基本でした。しかし、自社開発のプロダクトを提供するには“攻めの営業”に転じる必要があり、そのためのツール整備をこの1年で一気に進めました。
信じられないかもしれませんが、以前は売上高数百億円の事業部でも、Excelで営業データを管理していたのです。そこでまず、商談解析ツールも活用してデータの精度を上げながら、すべての営業データをSFAに集約しました。
現在はこれらのデータを活用し、AI活用に挑戦しています。マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールスを経て、受注後の要件定義、導入プロセス、そしてエンドユーザーへの価値提供に至るまで、事業本部全体で発生する全工程のデータをAIに学習させるのです。
これにより、何がきっかけとなり、エンドユーザーにどのような価値を提供できたのか。提供された価値がプロジェクトにどのような影響を与え、その結果として次に何が生まれたのか。これら一連のプロセスにおける因果関係や相関関係を把握することで、事業全体の最適化を目指しています。
安部 営業プロセスの効率化にとどまらず、事業のバリューチェーン全体をAIで解析しようとしているのですね。
モデレーター
スマートキャンプ株式会社 取締役執⾏役員COO 阿部 慎平氏
早稲田大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社に入社。大手企業の戦略、新規事業案件に多数従事。2017年3月にスマートキャンプへ入社後は、取締役執行役員COOとして、事業戦略、組織戦略、新規事業戦略の策定、『SaaS業界レポート』の執筆、インサイドセールス代行サービス「BALES」の立ち上げを担う。また、新規事業としてオンライン展示会「BOXIL EXPO」やセールスエンゲージメントツール「BALES CLOUD」などの事業成長を牽引。『SaaS業界レポート』は累計1万件以上のダウンロード。セールスフォースユーザー会インサイドセールス分科会2019年度会長。
菊地 そのとおりです。部分的な改革では効果は限定的です。今回、短期間でインサイドセールスを立ち上げられた最大の要因は、インサイドセールスとマーケティング、フィールドセールスを三位一体で同時に改革したからです。エンタープライズ企業で変革を行うなら、この3つをひとつのシステムとしてとらえ、連携させることが重要です。そうすることで、人が持つ知識とデータを組み合わせ、付加価値を高める「知識集約型」「人的資本集約型」の組織に変わっていけると考えています。
商談の「型」を現場に浸透させる「AI×DSR活用」
安部 キヤノンMJが取り組むDXにおいて、とくに営業の「型」化はどのように進められていますか。
林 日本の多くの営業現場では、依然として「この案件は勝算があるから、もう見積もりを出してしまおう」といった、明確な判断基準に基づかない経験に基づいた判断がなされるケースもあるのではないでしょうか。とくに低単価の商材を扱う場合、商談プロセスを定めても、なかなかそのとおりに実行してもらうことが難しい状況もあります。この課題を解決するため、誰が、いつ、どんなトークスクリプトで、何をすべきかを標準化した「デジタルプレイブック」の導入を一部のサービスにおいて進めています。
具体的には、商談プロセスを「型」化し、その実行と定着を担うツールとしてデジタルセールスルーム(DSR)を導入しました。
最初に、サービス種類ごとに「何回の対応でクロージングまで進めなかった場合は、リードリストに戻す」などの明確な商談プロセスを定義しました。DSRの画面を共有しながら商談を進めることで、お客様の困りごとをその場で議事録として構造化し、顧客との意識のズレを少なくします。これにより、商談回数をむやみに増やすことを防ぎます。

林 この「型」は顧客情報収集から商談評価まで、回数と内容を定義するとともに、全体の案件数、ナーチャリングステップを計算することにより、ファネルパイプライン管理と総営業工数算出につなげていくことも可能です。
たとえば、商談前にはAIツールで顧客の状況や中計などから戦略や方針といった大まかなインサイト情報を取得します。これらを基に仮説提案シナリオを作成し、商談中には、インタビューで得たファクトをDSRの画面へ「商談メモ」としてリアルタイムに入力して表示するのです。
これにより、個人の営業スキルを問わず、標準化された商談プロセスを進めることができます。さらに生成AIなどの商談解析ツールを活用することにより、DSRで管理するべき商談時の評価や次回アクション内容を効率的に抽出し、DSRに登録して、次回に活かせるようにしています。
このように、各商談プロセスで型を定義し、DSRなどのツールとAIを活用し、営業とマーケティング・インサイドセールスが役割をオーバーラッピングさせながら商談を進めるのが、今まさに取り組んでいることです。マーケティングメンバーやインサイドセールスがデジタルを駆使して受注に導く成功事例をつくり、それらを社内外で発信していきながら、営業現場への浸透を図っています。
