人間は「AIエージェント」をマネジメントする立場に?
──そのような課題を乗り越えた企業でのAI導入も進み始めていると思いますが、現場ではどのような課題が見られるのでしょうか。
これまで多くの企業でRAG(検索型の生成AI)の検証やAIソリューションの導入が行われてきましたが、その成果は必ずしも芳しいものばかりではありませんでした。
課題は大きく分けてふたつあります。ひとつは、単一タスクに特化したRAGを導入するケース。もうひとつは、逆に汎用的すぎるAIソリューションを導入するケースです。どちらも業務効率化できるタスクが限定的で、結果的に使われないものになってしまうことが多かったのです。
重要なのは、アプリケーションとデータを正しく整理したうえでAIエージェントを導入することです。それによって、AIの利便性を現実的な業務に落とし込むことができます。まずは、そのような提供価値を早期に多くの企業に体感していただく必要があると考えています。
それを踏まえ、今後の展望として大きく3つの方向性があります。まず、より多くの企業で既存の業務システムやデータ環境とスムーズに統合できるよう、AIソリューションの「柔軟性」を高めていくこと。次に、特定の業界や業務フローからベストプラクティスを抽出してリファレンス化すること。そして、ユーザーエクスペリエンスの向上です。
──これからのAI活用について、どのような未来を描いていらっしゃいますか?
生成AIの利用は二極化していくと考えています。ひとつは会社として用意した標準的なAI活用、もうひとつは個人の拡張的な利用です。会社が用意したAIとは既存の業務システムに生成AIがセットされ、社員は自然とAIを活用していくようなかたち。また、個人の活用については既存の生成AIをイメージしてもらえたら良いのですが、想像力と目標設定によって効果が最大化されるため、使う人が賢ければ賢いほどメリットが出やすいものです。
会社が用意する標準的なAIの将来的なビジョンとして、AIエージェントがより自律的に仕事ができるようになると考えています。現在は命令したことをやってくれる「AIアシスタント」の段階ですが、将来的にはAIエージェントがさまざまな専門AIを率いる組織のようなかたちになっていくでしょう。
AIエージェントという専門性を持ったAIチームのボスに話しかけると、さまざまな業務領域の専門AIにつないでくれ、それらのAIが協力して回答を導き出すような仕組みです。人間はそのAIエージェントのマネージャーのような役割を担うことになると考えています。
──最後に、AI活用を検討している企業へのメッセージをお願いします。
まずは小さなところから始めて体感することをおすすめします。
とはいえ、生成AI活用が「社内規定を検索できるようにしましょう」といった単発の利用で終わってしまい、なかなか職場に浸透せず、展開されないケースをよく耳にします。そうではなく、一歩目から汎用的なユースケースを意識し、それが業務全体に展開されたらどうなるかを想像することが重要です。
また、そのユースケースをどう考えれば良いかわからない企業も多いと思います。私たちの場合は、デザインシンキングを行うための専門部隊があり、大きなスコープの中でAIの価値を見いだすための議論をお手伝いすることも多いです。実行は小さく行うべきですが、アイデアは大きく広げていくことが、AI活用の幅を広げることにもつながるはずです。
──ありがとうございました!