新たな市場で競争優位性を確立する「事業戦略」
──パートナーセールスの定義について、桂川さんの考えを教えてください。
第三者であるパートナー企業と協業して商品・サービスを顧客に届ける仕組みを「パートナービジネス」と言いますが、その中で、とくにパートナーとの具体的な協業活動にフォーカスした領域が「パートナーセールス」です。単なる営業手法のひとつではなく、新たな市場を切り開いて競争優位性を確立するためのチャネル戦略であり、事業戦略そのものと捉えてください。
この前提に立つと、パートナーは単なる販売チャネルではなく、ともに新たな価値を創造する同志のような存在と言えます。パートナー企業を「代理店」と呼ぶか「パートナー」と呼ぶかは業界によって異なり、たとえば金融業界では保険代理店、製造業では特約店や代理店といった呼称が一般的ですね。一方でSaaS企業をはじめとするIT業界では、対等であることを示すために「パートナー」へシフトする企業が増えています。
古くは戦後にブリヂストンがタイヤの販売店を系列化するなど、パートナーセールスはかなり昔から行われてきました。フォレスター社のデータによると、世界の商取引の約75%がパートナーを通じて行われているのです。才流では、売上全体に占めるパートナー販売比率が5割以上の企業を、パートナーセールスの成功企業と定義しています。
パートナーセールスがもたらす3つのメリット
──グローバルで古くからパートナーセールスが行われている中で、とくに日本企業がパートナーセールスに取り組む必要性や有効性とは何でしょうか。
大きく分けて3つ挙げられます。ひとつが日本市場の特性によるもの。国税庁によると、日本には291万社の法人企業が存在しています。その多くが中小企業や窓口が固定化した大企業ですが、この広大な市場に対して、直販営業のみでアプローチするのは現実的ではありません。パートナーによる間接的な販売網が効率的・効果的な選択肢となるでしょう。
ふたつめが、協業による新しい価値の創出です。たとえば、技術に強いメーカーが顧客接点を有するパートナーと協業することで、競争優位性を強化したソリューション提供が可能になります。顧客の課題が複雑化した現在、1社だけでは解決できないケースも珍しくありません。そこで、企業間のスキルやアセットを掛け合わせて新しい価値を生み出すことで、多様なニーズに応えていくことができるのです。
3つめが、市場へのリーチの拡大です。よく「未開の地へ橋渡しをしよう」という言い方をしますが、自社だけでは開拓に時間がかかる、知見やノウハウが不足している新しい市場や顧客層に対して、すでにネットワークがあるパートナーを通じてアプローチできるのです。たとえば地域に根づいているパートナーや、特定の業界で実績があるパートナーと協業して開拓をしていくのは、大きなメリットになります。
これらの3つを実現している企業は多くありません。従来は各社が手探りで取り組んできましたが、この数年でパートナーセールスのノウハウや推進方法の体系化が進んでおり、今がまさに過渡期と言えるでしょう。