【はじめに】リセラーとは?
パートナー(代理店)ビジネスにおいてリセラーは、ベンダー(メーカー)が提供するソリューションをエンドユーザー企業に販売する役割を持つ。リセラーは顧客に対して、製品のマーケティング活動や、販売、導入から運用サポートまでを担当し、ベンダーにとって市場へのアクセスを広げる手段となる存在だ。
大塚商会はリセラーとして立ち位置を拡大し、オフィス運用に関する多様なニーズに対応するワンストップのサービスを提供している。包括的なサービス提供によって、エンドユーザー企業は複数のベンダーやサービスプロバイダーとの調整をしなくて済む。
顧客に製品の販売からサポート、さらに経営課題の解決まで行う大手リセラーは、ベンダーと共にパートナービジネスを成功させるために、どのようなビジョンを描いているのか。そのビジョンの実現に向け、ベンダー側に求めていることとはいったい何なのか──。
前回のディストリビューターに続き、今回は大手リセラーがSaaSパートナービジネスに対して考えていることを深く掘り下げていく。
直販からパートナービジネスにシフトする際、ベンダーに何が求められるのか?
桂川(才流) 今回はSaaSベンダーに対し、リセラーの立場から何を求めているのかというお話を聞かせてください。はじめに、下條さんと上野さんの自己紹介をいただけますか。
下條(大塚商会) 大塚商会のマーケティング本部には各営業部門、各地域、全社商材といった各役割を持つ販促部門があります。私はその中で、全体を包括した統合戦略・基盤プロモーション部をとりまとめています。
上野(大塚商会) 私はクラウド基盤プロモーション部に属するデジタルドキュメント課で管理職をしております。今の旬で言うと、電帳法などの国の制度への対応が必要な中小企業のお客様を中心に、ドキュメント関連のIT導入やコンサルティング、各種サービスのご提案推進を担当しています。
桂川 続いて、御社の事業概要もかんたんにお聞かせいただけますか。
下條 大塚商会は取引先企業が130万社にのぼり、月々のお取引によって請求書が発行される企業数は29万社、35万事業所にも及びます。多岐にわたる企業規模のお客様とビジネスを展開させていただいています。
主力事業は、オフィス運用に関連するほぼすべての要素を網羅したワンストップサービスです。ITインフラからビジネスアプリケーション、データ管理、さらにはオフィス家具、電球1個まで対応します。多くのリセラーが特定の分野に商材の主軸を置く中で、この幅広い提供能力が大塚商会の特徴と言えるでしょう。
我々はお客様が必要とする多様な製品やサービスを、約2,400社のパートナー企業と連携して提供し、導入からアフターサポート、活用の提案まで一貫して手がけています。
桂川 ありがとうございます。さっそくですが、連載第1回の記事で解説した「代理店(パートナー)ビジネスの実態調査」という我々の調査を、代理店(リセラー)という立場で見た際の率直なご感想をうかがえますか。
下條 代理店側の営業担当者が「ベンダーからの手厚いサポート」や「マージン」に関して要望があるという調査結果は、机上論で言えばまさにそのとおり。パートナービジネスを成功させるために大事なのは、これらのサポートに「気持ちがしっかり乗っているかどうか」だと思います。
まずベンダーは、直販を中心に行っていくのかどうか。もしパートナービジネスを中心に行うのであれば、市場のカニバリゼーションが起こらないよう、サポートも完全に代理店側に寄せていただく必要があります。我々も責任を持って協業させていただきたいため、ベンダーからのサポート体制は重視していますね。
桂川 なるほど。御社には日ごろから多くのベンダーから売り込みがあると思います。その際に重点的に確認している要素を教えていただけますか。
上野 技術力やサポート力が高いベンダー、お客様のニーズや満足度が高い製品、ユニークな製品を提供できるベンダーにはとくに注目しています。企業規模の大小は関係なく、ベンダーからいただいた提案がお客様のニーズと我々の戦略に合致すれば、積極的に協業を進めています。もちろん我々から協業をお願いすることもあります。
さまざまな商品が群雄割拠する時代ですから、突き抜けた企業の製品は大塚商会のラインアップに新たな価値をもたらし、お客様にも価値の高い製品やサービスの提供につながります。大塚商会がお客様目線で製品の付加価値をさらに高め、市場へのアクセスを広げる窓口となることで、提案から導入、アフターサポートまでお互いに良い提携ができるのではないでしょうか。
下條 一例ですが、以前、法律事務所に特化したソリューションを提供するベンチャー企業からのアプローチがありました。
彼らはパートナー用に価格を変えて提案してくれたうえ、「法律事務所のニーズには詳しいので、販売のきっかけさえつくっていただければ、あとは我々がすべて対応します。さらに、大塚商会さんのソリューションも学び、我々からお客様に一緒に紹介していきます」と提案してくださったのです。
積極的な姿勢に感銘を受け、「そこまでやってくれるのであれば、一度試してみましょう」と応えました。未だ紙で文書管理をする法律事務所のDXを目指す彼らのソリューションは、お客様のニーズにしっかりと応えることができ、我々の商品と高い相乗効果を生むと確信しています。
桂川 売り込みに本気度を感じますね。数十万社のエンドユーザー企業への営業ルートを持つ大塚商会さんとの協業は、ベンチャー企業にとっても大きなメリットがありそうです。
下條 そうですね。直販するのが販路やリソース的に難しいベンチャー企業に対して、我々が架け橋になれます。
数百万にも上る日本の企業のうち、大半はまだDXが進んでおらず、自社で解決策を探す能力も限られている。大多数の企業がデジタル・ディバイド(情報格差)に苦しんでいるのです。
たとえば先ほどの事例のように、弁護士事務所が文書管理のDXを進めたいと考えた場合、多くのサービスの中から自社に適したものを見つけ出すのは難しいでしょう。そこで我々がベンチャー企業のソリューションを適切に紹介し、ビジネスの拡大をサポートすることで、新たなビジネスチャンスが生まれるのです。