【はじめに】ディストリビューターとは?
ディストリビューターは一次代理店にあたる存在だ。ベンダーと販売パートナー(リセラー)の間に入り、効率的な流通と販売チャネルを確保する。いわゆる「卸売業者」のイメージだ(上図参照)。
ディストリビューターは数多くのベンダーと取引を行う。そのうえ、同一カテゴリーのプロダクトを複数のベンダーから仕入れることも多いため、販売パートナーから、エンドユーザー企業の課題解決の相談を持ちかけられることもある。また、ベンダーにとっては、ディストリビューターと提携することで、自社リソースだけでは届かない市場にも営業を拡大できるメリットがある。
ベンダー、販売パートナー、そしてエンドユーザー企業といったITビジネスのさまざまなステークホルダーをつなぐ架け橋となるディストリビューターは、SaaSビジネスをより一層理解しやすく、アクセスしやすいものに変えてくれる。
連載「パートナーを理解する者がパートナービジネスを制する!」第2回めとなる今回は、国内トップクラスの販売ネットワークと技術・製品開発力を持つSB C&Sに、ディストリビューターとしての立ち位置や活動、マーケティングについて詳しい話をうかがった。
数年後を見据えた「SaaSビジネスへの注力」
桂川(才流) 本日はよろしくお願いします。私は、SaaSベンダーに対しパートナービジネスのコンサルティングをしている立場ですが、ベンダーの中には、パートナービジネスについてあまり知見がない企業さんもいらっしゃいます。
今回は、パートナービジネスに深く関わるディストリビューターが、どのような立ち位置で、どのような活動をしているのか詳しく聞かせてください。
桂川 はじめに、田中さんのご経歴と、現在のお役割についてうかがえますか。
田中(SB C&S) 2003年に現SB C&Sに入社して以来、営業の世界に身を投じてきました。東京の営業部で部長を務めたのち、2015年に中部支社の支社長として名古屋に赴任して4年間を過ごし、2019年に東京に戻りました。営業統括部長として2年務め、2021年に現組織の母体となるSaaSの仕入れとマーケティングの部門に異動しました。
その後、社としてSaaSビジネスのさらなる拡大を目指し、“ソフトウエアの仕入れ部門の中にあるひとつの課”という存在だったSaaS部門を、一気に統括部としてスタートさせました。少人数で立ち上がった部門でしたが、2023年4月にはクラウドサービス推進本部となり、現在、本部長を務めさせていただいています。
桂川 幅広い製品を扱う中でも、SaaSへの注力度合いが高まっているのですね。ディストリビューター視点で見た、SaaS業界のパートナービジネスの現状とはどのようなものなのでしょうか。
田中 我々ディストリビューターにとって、SaaSビジネスの拡大は非常に重要であると考えています。
2020年度の「SaaS利用実態調査レポート(※1)」によると、1企業あたりのSaaS利用数はアメリカでは平均80個、日本では10個にも満たない程度でした。しかし2022年度の調査(※2)では、11個以上利用する日本国内の企業が2020年度比で32.7%も増加しています。
国内のSaaS市場は急速に拡大しており、今後も伸びていくと考えられるでしょう。数年後にはアメリカに近い数のSaaS製品が導入されると予測しています。
このような状況の中、当社もディストリビューターとして積極的にSaaS製品を取り扱っていきたいと考えていますし、SaaSに注力したい販売パートナーも非常に増えてきている状況です。
桂川 ベンダーも、幅広いエンドユーザー企業に製品を届けるためにディストリビューターや販売パートナーと契約していきたいと考えているはずです。
しかし、国内のSaaS製品すべてをディストリビューターや販売パートナーが取り扱うわけではないですよね。製品を選定するお立場としての、リアルなお話もうかがいたいです。
田中 ご存じのとおり、SaaSベンダーと販売パートナーの関係は、“子会社”でも、“関連企業”でもありません。ディストリビューターや販売パートナーにとって、ベンダーの製品はあくまでも“自社で取り扱う他社製品”という位置づけです。そのため、販売パートナー側にもメリットがあるかどうかが、選定する際の大きな判断材料になってきます。
各社同様だと思いますが、とくに利益率は重要視しています。製品の品質や機能が良いことはもちろん大事ですが、販売パートナーもビジネスですから、利益を確保できる製品を販売したいのが現実です。
そうした観点から見ると、桂川さんがこの連載の第1回の記事(「代理店が自社製品を売ってくれない問題」を解決するカギとは? 才流がパートナービジネスの実態を調査)で解説されていた3つのKSF(Key Success Factor=重要成功要因)は、まさにおっしゃるとおりであると感じました(※)。
※才流が掲げる「3つのKSF」とは、パートナービジネスを成功に導く3つの指標を指す。代理店は契約してもすぐに売ってくれるわけではないため、ベンダーは「代理店の事業にメリットがある」「代理店が儲かる」「代理店が売りやすい」という3つの指標にもとづき、代理店が製品を選定する理由づくりから始めると良い(引用元:才流)
桂川 3つのKSF以外に、取り扱う製品の選定基準はありますか。
田中 トレンドに合った製品ですね。最近だと、生成AIにまつわる製品、法改正に合わせたソリューションを提供できる製品などが挙げられます。トレンドを探しにイベントに頻繁に参加したり、データ収集や海外の視察なども行ったりしながら、売れる見込みのある製品を常に注視・検討しています。売れる見込みがあれば、我々からベンダーに提携をお願いすることもあります。
また、少し別の観点ですが、新規お取り扱いを検討させていただく際に、「パートナー比率をどれくらいまで上げたいのか」など、ベンダーの“本気度”を問うことはあります。「今の比率から倍にしたい」「具体的に〇%まで上げたい」などの目標があると「そこに向けて一緒に頑張りましょう!」となりますね。
桂川 本気度やビジネスの解像度が高いと、パートナーとしても協業しやすそうですね。