起業を視野に、営業職でキャリアをスタート
――まずは黒佐さんのこれまでのキャリアをお伺いしたいと思います。スタートは新卒で入られた住宅販売大手の営業職ですね。学生時代から営業職を目指していたのですか。
とくに目指していたわけではないです。ただ起業しようと思っていたので、そのためにどういう知識が必要かを考えて、最終的に営業職を選びました。どんな事業であっても、商品やサービスを説明・説得する力は必要です。ものを売る以外でも、人材採用の際に会社の魅力を伝えたり、資金調達の際に事業の将来性を説明したりと、起業のあらゆる場面で営業の能力が必要だと思いました。
――起業を考える学生が、まず営業力をつけようとするのも珍しいなと思いました。
そうですね。私の場合は、具体的にやりたい事業があったわけではなく、「より多くの人を幸せにする」という自分の信念を実現する、あくまでも手段として起業を考えていたのもあると思います。
――新卒で入った住宅営業の現場はどうでしたか。
最初から難しさを感じた記憶があまりなく、自然とやれていました。誰よりも早く家に帰るようなタイプでしたが(笑)、自由にやりながらも成績は残せたんです。でも同期は苦労していました。ほとんどの人にとって家は一生に一度の買い物ですから、なかなか大変なんです。新入社員が1~2年経って1件も売れないということも普通にありますから。
――黒佐さんがうまくいった理由はどこにあったのでしょうか。
ひとつには信頼性の担保です。一生に一度の買い物をするとき、知識もない、見た目も若い23歳の新卒には任せられないですよね。知識を学ぶのは当然ですが、どのタイミングで、どんなトーンで、何を説明するかという、心理テクニック的な部分でも信頼性の担保を意識していました。若さや元気をアピールせず、新卒であることは決して言わず、むしろ真逆でこの世界のことはよく知っていますという感じでやるんです。
もうひとつは当たり前のことですが、お客さんが本当は何をほしがっているのを聞き出すこと。ものを売るというのは、課題があってニーズがあって、それに対するソリューションとしての商品やサービスがあり、そのマッチングです。住宅営業はモノウリ営業ではなく、ソリューション営業なんです。家を買ってもらう場合の課題はなにか。今の家が手狭になったとか、奥さんが2人目をほしいと思っているとか、そうした個別の課題を深掘りして引き出すことはよくやっていたと思います。仕事以外でも、人の本質に興味をもってよく話を聞いていたりしたので、ヒアリング能力はあったのかもしれませんね。