データの「お守り」から脱却し、真に使えるデータ環境を実現する
セールス部門の最大のミッションと言えば、再現性と効率性を兼ね備えた「売上の最大化」。そのための方策として、DXやニューノーマルなどのキーワードの元、「営業プロセス」「データ活用」、そして「テクノロジーの活用」が注目されている。
primeNumber 代表取締役CEOの田邊雄樹氏は、「『データをどう使うべきか』は、組織の形や業務などによって異なるものの、The Modelをベースとするマーケティングからインサイドセールス、フィールドセールス、そしてカスタマーサクセスという一般的な営業組織ならば、全工程にかかわってくると言っても過言ではありません。とくに近年は、インサイドセールスやフィールドセールスなどの中間部分に、補完的な機能を担う営業企画や営業推進(Sales Ops、Sales Enablement)などが配置されており、そこでのデータ活用が鍵を握ります」とデータ活用の要点を語った。
同時に、各領域でデータの活用によるさまざまな効果が期待されているものの、データの『お守り』に終始してしまい、本来の目的に沿った運用ができているかを把握しきれていない企業の多さを課題として指摘する。
「データの収集整理に終始して、本業がおろそかになっては本末転倒としか言いようがありません。本来得たかった効果と真逆の状態に陥っているためです。テクノロジーの活用に取り組むのであれば、データ活用の作業そのものも効率化する必要があります」(田邊氏)
そんな田邊氏が率いるprimeNumberは、「あらゆるデータをビジネスの力に変える」をミッションとして掲げ、データ統合自動化SaaS「trocco」、ビッグデータの基盤開発を行なうPaaS「systemN(システムエヌ)」などを軸に、データ活用支援ソリューションを提供している。
田邊氏は、データ活用までのプロセスは6つに分かれると説明する。多くの企業では、社内に膨大なデータを保有しているものの、いわば「(1)点在」している状況にある。そうしたデータを「(2)統合」し、AWSなどのデータウェアハウスに「(3) 蓄積」、そしてtableauなどのBIによって「(4)可視化」し「(5)分析」することで仮説立てを行う。このように「(6)活用」をしたあとは、再び結果を分析して改善に取り組んでいく――。
この一連のPDCAをAIや機械学習などで自動化する方法もあるが、primeNumberは、そこに行き着くまでの「前段階」に入り込む。田邊氏は「当社は、点在していたデータの統合から可視化・活用に至るまで、すべての領域に泥臭くかかわっています」と述べた。
リード獲得チャネルや活用状況などをデータで評価し、新規営業に活用
primeNumberの営業活動は、マーケティングに2名、インサイドセールス・フィールドセールスに2名、そして営業企画・業務推進に1名、そしてカスタマーサクセスに2名という体制で行なわれ、パートナービジネスも展開されている。
同社では、ほかのサブスクリプション型ビジネスと同様に、新規売上、既存顧客の売上、アップセルの売上に対して解約額が差し引かれたものを「売上」と定義。なお、新規売上については、イベントなどで獲得したリード数に面会率、商談率、成約率、そして平均単価がかけ合わされたものを指している。
マーケティング領域においては、「各リード獲得チャネル別にどの程度費用をかけているのか」「どれくらいのリード数・訪問数・商談数が獲得できたのか」「最終的にどの割合が受注に至り、売上に貢献したか」のすべてを可視化しているとのこと。また、最終的にはLTVと照らし合わせてチャネルを評価し、週次・月次ごとにグラフ化して状況を可視化することで以降の活動に反映していることも語られた。
これにより、チャネル別の営業効率や投資効率を把握し、予算の再分配を迅速に行いながら最適化を図るだけでなく、季節変動やトレンドにも目を向けながら各施策のタイミングを見極めることができる。もちろん、周りの状況を類型化して、商談・提案におけるシナリオの精度を高めることも怠らないそうだ。
「より多くの機能を活用することで、平均単価を上げたり、アップセルのネタを営業に提供したり、地道に繰り返すことが大切。これを実現するうえでは、データの収集や可視化などの作業を最小化しつつ、業務を推進する必要があるのです」(田邊氏)
これらのワークフローは、言葉にするとシンプルだが、手作業で行うことは非常に難しい。同社も、かつては各業務担当がスプレッドシートにデータを毎週入力し、それらを1つひとつチェックしたのちに分析が行われていた。しかし、負担が大きいだけでなく、担当の裁量でデータの質が変わってしまうため、テクノロジーを用いてデータを自動化・効率化することで、データの均一化を図り、組織や担当者をまたいだ場合も評価をぶらさずに業務を遂行できるようになったのだという。今後について、田邊氏は「自動化できる箇所も増やしながら業務の効率化や機能の標準化を図り、メニューやプライシングの見直しの参考情報としていきたい」と語っている。
既存の売上に関しては、既存顧客の売上を維持しつつアップセルを最大化し、解約額を最小化することが求められる。ここで鍵を握るのはカスタマーサクセスの存在だ。同社のカスタマーサクセスでは、既存顧客のサービス活用状況を可能な限り定量化し、スコアリングすることで定量化に努めている。さらに月次で振り返りを行い、スコアが高い顧客に対しては「新機能の紹介」、スコアが低い顧客に対しては「解約回避のための活動」に取り組むなど、顧客それぞれの状況に応じた適切なコミュニケーションを図っているという。
顧客に対するコミュニケーションの「頻度」も重要なポイントだ。高い頻度のコミュニケーションを求める顧客もいれば、邪魔にならない程度の最低限のコミュニケーションを好む顧客もいるため、状況に応じてレイヤー分けが行われていることが語られた。
半年間で顧客数2倍! データ活用効果を最大化する3種の神器
月次転送量や問い合わせなど、さまざまな項目から顧客のサービス活用状況をスコアリングし、その数値に大きな変化が見られた際には、個票を参照してさらにデータを深堀りする――どのようなデータを統合しようとしているのか、どれぐらいのデータ処理を動かしているのか、どのような頻度でログインしているのかなどをブレイクダウンしてチェックし、顧客の状況を把握している点も言及された。
高いスコアの顧客にはより活用してもらえるような資料を送付する、あまり活用が進んでいない顧客には無理強いをしないようにさりげなくユースケースを提案する、などの取り組み以外にも、「A機能を使っている方はB機能を使う傾向にある」といった類型化に基づいた提案や、顧客の声などの定性的な情報を提供するコンテンツ・広告に活かす取り組みが行われていることも紹介された。
田邊氏は、このスタイルにたどり着くまでには多くの苦労があったと振り返る。自社は「ようやくテクノロジーを活用しながら効率化を実現できたところ」と語り、今後は、エンゲージメントの高い顧客に対して自社施策へ招待するなど、より距離感を縮める施策も思索しているそうだ。
こうした一連の取り組みの結果、primeNumberは約半年で顧客が2倍に拡大したという。マーケティング主導で新規顧客獲得に注力しながらも、顧客との適切な距離や関係を保ち、解約率1%未満を維持できたことが勝因として語られた。これに対して、田邊氏は「プロダクトによるが、営業もマーケティング、カスタマーサクセスも全員が同じデータをチェックしつつ、顧客との適切なコミュニケーションが可能になったため」と分析している。
メルカリ、ホワイトプラス、SHIFTの活用事例
セッションの中では、primeNumberが営業活動を支援した3社の事例も共有された。
インセンティブを再設定したことで営業効率が大幅に向上し、営業の構造そのものが改善されたメルカリのほかにも、事業の稼働状況を統合・分析し、割引率の改善を通じてリピート率20%アップを達成し、LTVの最大化に貢献したホワイトプラスの事例も紹介された。また、システム開発会社のSHIFTにおいては、Salesforceをはじめとした業務システムから必要なデータを抽出・変換して「見える化」を強化し、データに基づく行動を従業員に促したという。
これらの企業で使用されている「trocco」などのサービスは、ローンチから3年弱で200社以上へ導入されるなど好調な売上推移を見せている。これも、primeNumber自身が自社サービスを用いてデータをフル活用する環境づくりを実現できたことが成功要因として語られた。
田邊氏は、「6つのプロセスにおいて、『統合=ETL』、『蓄積=DWH』、『可視化=BI』は、データを徹底活用するために必要な『三種の神器』と考えています。この神器こそが、データ活用のための業務工数を削減し、判断スピードを高めます。同社もデータの統合を中心に、周辺までトータルに含めたソリューションとして提供が可能であるため、ぜひ、気軽に声を掛けてください」と力強く語り、セッションを総括した。