"会社のコアバリュー実現のために何をすべきか"を個人の行動につなげていく
――継続的なセールス・イネーブルメントを推進するためには、専門の人材確保も必要に思えます。「イネーブラー」育成はどのようにすすめていらっしゃいますか。
イネーブラーのバックグラウンドは大きく分けて2種類あります。ひとつは、その人自身に営業経験があり、キャリアパスとして教育する側の経験を積みたいと考える人。もうひとつは、人材開発コンサルティングなどの領域を経験し、社外からジョインしてくる人です。前者は営業現場やお客様の気持ちを理解した細かいフィードバックに強みがあり、後者は人材開発を体系的に学んだアカデミックな視点に強みがあります。
異なる強みを育成に活かしている一方、営業現場からはイネーブルメントへ幅広い要望をもらいます。このとき、イネーブラー側の視点や内容にムラが生じていると、中長期的には懸念になりうるとも考えられました。そこで現在は、基礎的なオンボーディング(入社から立ち上がりまで)を専門的に行うチームと、その先の育成を担当するアドバンストチームに分け、それぞれの専門性をより明確につくることによって「イネーブルメントにおけるイネーブラーのキャリアパス」を仕組み化しようと考えています。
――セールス・イネーブルメントの取り組みにおいて、自社で提供しているSalesforceのシステムをいかに活用しているのでしょうか。
前提としてセールス・イネーブルメントの取り組みの起点は、SFA/CRMの中にある「営業活動にまつわるデータ」です。なぜなら、イネーブルメントの貢献を測るものは「社員がどのような時間軸で成長し、営業成果を出したか」という育成プロセスと結果のつながりを見る定量的なデータだからです。
当社では取り組みの一例として、この10年間に入社した数百人の営業担当者の活動データをすべて、「Tableau CRM」で分析し、KPIの達成状況がどのように変化しているかを可視化しました。現在は、社員の成長スピードごとにグループを分けたり、それぞれのグループで各KPIの達成状況がどう推移したかを分析したりすることが可能になっています。この定量的な情報と、日々マネージャーがモニタリングしている現場の定性的な情報を掛け合わせることによって、個人の強みや経験、レベルに応じた適切な育成ステップで成長できる仕組みが実現できています。
補足:Tableau CRMの分析
ひとつの丸がひとりの営業担当者。縦軸が営業成績、横軸が社内大学の単位数。1は受講数が少なく成績も出ていないため要継続学習、2は受講しているが成績に結びつかない要実践力向上、3は受講数が少ないが成績が出ている天才もしくはまぐれ、4が模範的営業。トレーニングを受けた数と営業成績が相関しているのがわかる。入社時に1だったメンバーが4になっていくのが理想的。
さらに、お客様にも提供しているセルフラーニングツールを「myTrailhead」として自社内でも活用しています。コンテンツを読んだり聞いたりしてインプットするだけでなく、テストなどを通して着実にランプアップ(実力強化)できるのが特徴です。現在テスト中ですが、トレーニングだけでなく次のTo Doを指示することができる機能の自社内の活用を始めています。「このカリキュラムを受講したら上長にこれを提出してください」など、インプットからアウトプットまでをガイドするものです。
――セルフラーニングがうまく回る文化は、どのように醸成しているのでしょうか。
当社には「Trust」「Customer Success」「Innovation」「Equality」という4つのコアバリューがありますが、トップがこれらのコアバリューを日頃から言葉にして伝えることで、セールスフォース・ドットコムという企業が何のために世の中に存在しているかをブレることなく意識し続けることができています。
さらに、この会社のコアバリューを1人ひとりの目標設定や進捗管理につなげる考え方として浸透しているのが独自のフレームである「V2MOM」です。これは「Vision」「Value」「Method」「Obstacles」「Mesurement」の頭文字をとったもので、V2は会社の哲学、MOMは個人の具体的な取り組みを指しますが、これらをひとつながりで考えることにより、個人の取り組みからいつでも会社の軸に立ち戻れる仕組みになっています。
このV2MOMは、私たち1人ひとりの社内SNSのプロフィール画面にも表示されているため、世界各国の拠点のメンバーと話すときにも「この人は会社のコアバリューを実現するために、何を頑張っている人なのか」をすぐに知ることができ、良いコラボレーションにつながるんです。
目標だけなく、普段から1人ひとりの活動が可視化されているため、他のメンバーに対してごまかすことができないんです。ごまかせないというと息苦しく感じるかもしれませんが、成功も失敗も正々堂々と発信して共有することが信頼関係を生み、組織で目指すところに向かってそれぞれが決めたことをきちんと遂行するという当たり前のことにつながっています。