立ち上げ期のビジネスでは分業しないワケ
――まずは倉田さんのキャリアについて教えてください。
リクルートに新卒入社し、企業の人事部に「リクナビ」など求人広告ソリューションを提供する法人営業としてキャリアをスタートしています。監査法人を母体にした経営コンサルティングファームに移ってからは、大手製造業・IT企業を中心に営業戦略立案から、SFAの導入支援までを経験しました。その後、MAのマルチベンダーへ転職してBtoBマーケティングへとキャリアを拡張しました。
新規事業に特化したSaaSを展開するRelicには2018年からジョインし、現在はグロースマネジメント事業部の責任者を務めています。クライアントやパートナーの事業グロースと自社サービスの拡大・成長を担う部門です。本日は、同事業部内に所属する立ち上げたばかりの自社サービスの成長を担う営業チームについてお話できればと思います。
――新規事業を立ち上げるフェーズの営業組織では、いわゆる「The Model」的な分業制をとっていないと伺いました。
先に、新規事業の立ち上げフェーズについてお話させてください。大別すると主に以下5つのフェーズがあります。
- (1)アイディア創出フェーズ
- (2)顧客課題の確認フェーズ=CPF(Customer Problem Fit)
- (3)解決策の検証フェーズ=PSF(Problem Solution Fit)
- (4)収益性の検証フェーズ=PMF(Product Market Fit)
- (5)拡大/成長フェーズ
事業立ち上げ期の営業チームは、(3)(4)の検証を終え拡大/成長フェーズへと導くことがミッションであり、売上や利益をKPIにしていないという前提があります。
一方、「The Model」のような分業化のメリットは効率性や専門性を高めること。各部門でKPIを決め、部分最適から全体最適へと進んでいくことで、生産性やパフォーマンスを最大化していくという取り組みであり、ある程度、営業・マーケティングのプロセスが設計されていて自社のオペレーションが機能しているときに初めて成立するものだと考えています。つまり、事業の「拡大/成長フェーズ」で必要となるのが分業体制です。
新規事業では、「いま開発しているプロダクトは想定顧客の課題を解決するソリューションなのか」「ソリューションに対する市場の受容性はあるか」「プロダクトの必要最低限の要件は何か」「訴求するチャネルがあるか」など実際にユーザーにヒアリングをしながら、フェーズを移行させていく必要があります。営業は顧客から得た情報をもとに、プロダクトの改善すべき点を開発サイドにもきちんと言語化してフィードバックする必要がありますし、想定顧客の声にも耳を傾けてターゲットに最適な販売チャネルを探るなど、来たる拡大/成長フェーズに向け、適切なマーケティング・セールス手法を確立していかなければなりません。
つまり、プロダクトやアプローチ手法にまだ正解がない状態の立ち上げ期は、業務やKPIを分断せず、少数精鋭のメンバーで営業活動に取り組むほうが、スピーディかつ、少ない予算で成果を出せるという考えのもと、あえて分業していないのです。検証期間が長期化すると、最終的には収益化も遅くなりますし、競合サービスがローンチされ、先行者利益を奪われるリスクもあるので、新規事業立ち上げ期においてスピード感はもっとも重要なポイントのひとつです。