DXを文化に変える──現場の「確かな実感」を全社へ波及させる仕組み
──優れたツールでも、現場の慣習を変えて定着させるのは容易ではありません。その高いハードルを越えるための「突破口」をどこに見出したのでしょうか。
鳥海 新しいツールの導入には、必ず心理的な壁が立ちはだかります。そこで私がとった戦略は、まず信頼できる「現場の推進役」を巻き込むことでした。具体的には、以前から志を同じくし、現場の課題を深く理解している油野のチームから始めようと決めたのです。
彼とは旧知の仲で信頼関係もありましたし、彼のような現場のリーダーが「これは使える」と確信してくれれば、そこから成功事例が自然と波及していくと考えました。IT部門がいくら「便利だ」と叫んでも現場には響きませんが、現場のパイオニアが実際に活用することで初めて、そのツールに「信憑性」が醸成されるのだと考えています。

──現場の視点では、上からのツール導入には抵抗感を感じるケースが多いですが、油野様はその提案をどう受け止めたのでしょうか。
油野 どれほど優れた既製品のツールであっても、現場には現場のプライドや、長年積み上げてきた「作法」があります。私自身は、多少「新しいもの好き」な性格ではありますが、それでも最後は受け手側の「マインドセット」を変える必要があると感じています。
──「マインドセット」を変えるとは、どういうことでしょうか。
油野 ツール導入において「これまで自分がやってきたことが100%思い通りに再現できるか」を求めすぎると、どうしても食わず嫌いやアレルギーが発生してしまいます。とくに、経験豊富なベテラン層ほどその傾向は強くなりがちです。
しかし、ツールはあくまで「既製品」ですから、ある程度はこちらがツールの作法に歩み寄り、自分を合わせていく姿勢も大事なのです。
そうすることで、これまで見えなかった課題が、霧が晴れるように見えてくる瞬間が訪れます。一度その成功体験を味わえば、現場は自律的に走り始めます。だからこそ、まずは使っている人間が「これは便利だよ」と地道に伝えていく。その実感を伴った声こそが、組織の壁を崩す最初の一歩になると信じています。
──現場の「実感」こそが、組織全体への波及に不可欠なのですね。
鳥海 そのとおりです。だからこそ、専門的な分析経験がなくても直感的に操作でき、現場のアイデアをすぐに形にできるツールを導入することは大切です。
そして今後は、油野のような「推進役」を各事業部門の中に見つけ出し、現場に自律的な「塊」ができている状態を数年かけて作っていきたいと考えています。そのための仕掛けとして、素晴らしい活用を見せた担当者を全社で称える「事例発表会」や、社長による表彰制度も構想中です。
──最後に、プラス様の組織はどのように進化していくとお考えか、展望をお聞かせください。
鳥海 私たちのミッションは、単にインフラを整えることではなく、データを使って「新しい売上やサービス」を次々と生み出すことです。
今はまだDX部門が主導していますが、理想は「私たちがいなくても現場が自走している状態」。2〜3年後には、各事業部にデータ活用の専門知識を持つ人材が当たり前にいて、現場がボトムアップで動き出している。そんな「自律的なデータ活用」の文化が強固に根づいた組織を、数年かけて作り上げていきたいと考えています。
油野 現場の立場から言えば、整えられたデータ基盤を使い倒し、それによって浮いた時間をどれだけ顧客へ向けられるかが勝負だと思っています。
営業は本来、極めてクリエイティブな仕事です。個々のスキル差はAIを「壁打ち相手」や「相談役」として活用することで埋めることができますし、組織全体の知見を底上げすることも可能です。テクノロジーによって営業のスタンダードを一気に引き上げ、人間は人間にしかできない「創造的な提案」でお客様に価値を届けていく。そんな姿を目指したいですね。

──DXの本質はテクノロジーそのものではなく、それによって解放された「人間の創造性」にあるのだと強く実感させられる取材でした。貴重なお話をありがとうございました!
