大学院在籍中よりソフトウェアベンチャー立ち上げに参画後、大手総合系コンサルティングファーム勤務、IoTなどを手掛けるIT企業役員を経て現職。現在は専修大学大学院にて客員教授も務める。 EYストラテジー・アンド・コンサルティング のカスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーションにて、ビジネス成長のドライバーとなる戦略策定(サービスデザイン)から顧客接点改革(マーケティング、営業、コンタクトセンター、カスタマーサクセスなど)の実現までを総合的に支援するチームのパートナーを務める。直近では、CROアジェンダのオファリングリーダーを務める。
10年間変わらない経営課題 急減する「売る担い手」のギャップ
営業組織を取り巻く現在の環境を、データをひも解きながら見ていきましょう。
日本能率協会が毎年発表している統計によると、2014年から2024年に至るまで、企業の経営課題の上位3位はまったく同じであることがわかります。10年間にわたり、経営層は「売り上げ・シェア拡大」「収益性向上」「人材の強化(採用・育成・多様化への対応)」という危機感を感じているのです。
一方で、営業現場はどうでしょうか。総務省の統計によれば、販売従事者の数は2001年の968万人をピークに、現在は810万人へと減少しています。約20年間で、実に160万人もの「売る担い手」が消えてしまったということですね。
さらに深刻なのは、現職の営業職の約81%が「退職を考えたことがある」と回答している事実です。経営が「収益を上げろ、人を育てろ」と叫ぶ一方で、営業や販売の担い手はこの先も減少していくことが予想されます。
営業が辞めたくなる理由の第1位は給与、第2位は長時間労働、そして第3位がモチベーションの低下です。この結果を受けて経営者が取り組むべきは「報酬体系の見直し」と「業務生産性の向上」。営業のインセンティブ設計は中長期的に取り組むべき課題として、今回は短期的成果につなげる「業務生産性の向上」について解説していきます。
DXを形骸化させる「目的」と「期待効果」のミスマッチ
多くの企業が生産性向上を掲げてSales Techを導入していますが、調査によれば約83%の企業が「営業活動を強化できずに課題が残っている」と回答しています。
さらに海外のデータでは、CRM導入後に事務作業や入力に取られる時間は業務全体の40%に達し、本来の営業活動に充てられている時間はわずか27%以下という衝撃的な数字も存在します。1日8時間働いて、お客様と向き合えるのは実質2時間程度。1日1件訪問できるかどうかです。
なぜ、こうした事態に陥るのでしょうか。営業現場が抱える課題と、企画部門が示すSFA/CRM導入の目的を比べてみましょう。
企画部門が掲げるCRM導入の目的は「フォーキャスト(予実管理)の精度向上」など、管理側の視点が中心になりがちです。しかし、どれだけ高度なフォーキャストを実現しても、現場のクロージング精度が上がるわけではありません。
SFA/CRM導入が失敗する最大の要因は、目的と期待効果のミスマッチにあります。現場にとってメリットがなければ入力は滞り、管理者も使わなくなり、使えない「汚(お)データ」ばかりが蓄積される悪循環に陥ります。
こうした状況になって初めて相談にいらっしゃる方が多いのですが、皆さん口をそろえて「IT(UI)の問題だ」とおっしゃる。「煩雑な入力項目を減らすべきだ」と。しかし、現場の課題は、入力項目を楽にすることでは解決しません。
SFA/CRMが形骸化していく要因は多岐にわたり、たとえば、マネージャーによってExcelやメール、スライドでの報告を求めるなど二重管理が生じる「プロセス・ルールの問題」、マネージャーごとに根拠とするデータや意思決定のポイントが属人化している「組織の問題」が起こり得ます。
これらの原因から、テクノロジーを活用するには、何よりも先にプロセスや意思決定そのものを標準化する必要があるということがわかります。SFA/CRMを導入する際は営業現場の業務ではなく、マネジメントを標準化するべきなのです。これがしっかりできていないと、DXはうまくいきません。

