数千万円の利益と同等の価値を持つ「事実」の蓄積
最近では、商談を録音・文字起こしし、AIを使って顧客の発言や反応を分析するツールも普及しています。これによって、属人的な感覚を超え、チームとして学習することができます。
重要なのは、営業を「結果を出すためだけの活動」と捉えるのではなく、「事業の解像度を上げるための活動」として位置づけることです。
誤解を恐れずに言えば、0→1フェーズにおいては「売上」よりも「事実」のほうが価値が高い局面すらあります。もちろん、事業である以上、受注(売上)は重要です。しかし、本気でクロージングをかけた結果としての「No(失注)」は、単なる失敗ではなく、「なぜ売れないのか」「何が足りないのか」という極めて精度の高い一次情報です。
「どの仮説が間違っていたのか」「どの前提を更新すべきか」という学びを組織に残せているかどうかが、新規事業の成功確率を大きく左右します。経営的な視点に立てば、営業が早期に「この市場にはニーズがない」と断定し、撤退やピボット(方向転換)の判断を促すことができれば、それは将来発生するはずだった無駄な開発投資を未然に防いだという意味で、数千万円の利益を生み出したのと同等の価値があるのです。
新規事業において、営業はプロダクトづくりの「外側」ではなく、「中核」にあります。営業こそが仮説検証プロセスの最前線であり、プロダクトと市場をつなぐインターフェースです。ここを「ただの販売機能」と見なすか、「事業をつくるための学習装置」として扱うかによって、数年後の景色は大きく変わります。

次回の第2回では、この「売ることから始める仮説検証」を具体化する「テストセールス」の手法について解説します。多くの現場では検証フェーズが曖昧なまま営業活動に走ってしまいますが、本来は「CPF(顧客・課題の適合)」、そして今回強調した「PSF + Asset Fit(解決策と自社アセットの適合)」、最後に「PMF(市場への適合)」というフェーズに応じて、検証すべき問いと見るべき指標を明確に切り替えていく必要があります。
「どの順番で顧客にアプローチし、どのような問いを投げかけ、何を検証完了とするのか」。BtoBソリューションなどを例にした具体的な質問のイメージも交えつつ、現場で応用できる実践知をお届けする予定です。
