決裁者の「意外な行動」 データが明らかにする顧客の真実
徳田 もうひとつ、溜まったデータをどのように営業フロントに届けるかも大事な要素です。そこで我々は、「Sales lab」という形で、Teamsを通じて個々の営業に商談を進めていく中での推奨アクションを提案する取り組みを行っています。
このようにデータをしっかり利活用できるようにするためには、営業自身が「この人は意思決定者だ」などと現場で感じたことをインプットしてもらうことも大事ですし、営業が気付かないことをしっかり把握できるようにしてあげることも大事です。

高橋(TORiX) お客様の活動をきちんと見ることは大事ですね。営業は商談した相手の発言内容を重視しがちですが、実はお客様側では実際に商談をしている以外の人が熱心に情報収集をしていたりするものです。これはデータを1つひとつしっかりと追っていけばわかりますし、データ全体を俯瞰して見るだけでもだいぶ違うと思いますね。
徳田 インテントデータの活用も進んできていますが、大企業の場合、ドメインはわかっても、それがどの商談と紐づくかまではわかりません。そこは営業が顧客と直接会って話をしながら、把握していくことが必要になります。
高橋(TORiX) 実は『営業の科学』を書いた時に、「良い情報を送ってきたら返信をするか」を調べたのですが、担当者よりも決裁者のほうが「返信をする」という割合が多かったんですね。「忙しい人は見ていない」とか、「返信してくれないだろう」と思いがちですが、役職が上の人のほうが真剣に情報収集をしているわけです。
そのような情報が自社のSFAにきちんと登録されていないと、「実は競合他社を熱心に調べていた」といった行動を見逃してしまいかねません。そういう意味で、見えていない部分を可視化することはとても大事な活動です。
徳田 見えない情報をどうやって吸い上げていくのかというのも営業やテクノロジーの役割だと思いますし、仕組みを整備したうえでそれらが見えてくれば、エンタープライズセールスの成功率は上がるでしょうね。

「共通言語」の有無がチームの営業力を左右する
高橋(SalesZine) エンタープライズセールスは、個人ではなく組織全体でいかに実行していけるか、再現性が課題となりますね。その際にはマネジメントのあり方も考える必要があります。その辺りはいかがでしょうか。
高橋(TORiX) 再現性とは、“みんなが実践できること”です。5,073件の営業組織に自社営業の勝ちパターンを聞いたところ、営業目標を高いレベルで達成している営業担当者群と、目標未達のローパフォーマー群で大差がついたのが、「勝ちパターンと言えるものは特にない」の項目で、後者の約4割がイエスと回答しています。
エンタープライズセールスのような難易度の高い営業活動において、まずは組織全体で「共通言語」を持つことが不可欠です。実際私がさまざまな企業を支援してきた中で、営業が強くて有名な会社は、言葉のそろい具合が違っていました。
その視点を踏まえて、エンタープライズ営業の難しさを整理したのが次の図です。多くの営業は、問い合わせが来た案件がこちらから仕掛けていったものかどうか程度しか把握できていません。そこで、どんなきっかけで発生した案件かをしっかり分類していくと、起こっていることがある程度想像できるようになります。
そうすると、マネジメント側が「今こういうことが起こっているから、こうやったら良い」とアドバイスでき、過去に似たような案件があったかも探しやすくなります。

徳田 共通言語がない組織では、みんなが勝手な言葉で顧客の状況をセグメンテーションしてしまい、正確な傾向がつかめないというケースは多いです。共通言語の存在は大切だと思います。
高橋(TORiX) 加えて、もうひとつ私が注目しているのは、実質的にどのタイミングで購買が決まっているのかという問題です。調査の結果では、6割強がベンダー比較の前の「要件定義」段階までに購買が決まっています。しかし、多くの営業パーソンはそれがプレゼン段階だと思っているのです。このように、タイミングに関する意識の問題も見逃せません。
