カスタマーサクセスと営業組織の対立解消へ
こうして、「カスタマーサクセスがフェーズ2の顧客を増やす」→「営業がフェーズ2の顧客に受注確度50%以上の提案を増やす」と営業とカスタマーサクセスのドライバーKPIがつながりました。
従来、カスタマーサクセス組織のミッションが不明瞭な部分があり、「とにかく勉強会を開催しよう」という組織になっていました。営業からすると、あたかも「勉強会の代行チーム」かのような見え方にもなっており、KPIのズレが営業とカスタマーサクセス間の対立要因にもなっていた側面があります。
それが、ドライバーKPIの設定により「顧客の成功に向けて何をすべきか」が明確になったことで、ともに売上を創出するチームとしての連携ができるようになりました。

売上創出に向けた最短距離を走れるようになったわけなので、営業生産性が1.4倍以上といった変化が起きるのも必然といえます。
なお、この数字は期間中の新入社員もふくめた、組織全体の生産性推移です。改革前から在籍していた既存人員に限れば、1人あたり生産性は1.6倍~2.2倍にもなっています。
組織ミッションと評価制度の変革に
ここまで書いてきたように、ドライバーKPIの設定は生産性を飛躍的に向上させました。
しかし、変わったのはただの“行動”だけではありません。
組織ミッションの変更:“攻めのカスタマーサクセス”への転換
売上増につながる活動が可視化されたため、「ドライバーKPIにつながる活動ができる組織」に変革していく必要性が出てきました。
実は、従来のカスタマーサクセス組織のミッションは勉強会を行うことで、当然ながらメンバーもそういう理解で入社してきています。しかし、KPIの変更によって「機能B、Cの活用提案」をカスタマーサクセスからも行う必要が出てきました。
当時のカスタマーサクセス部長は、ドライバーKPIをよく理解し、メンバーと1人ひとり向き合ってくれました。「私は営業なんてできないし、無理です」というメンバーもいる中、粘り強く接して変化についてきてもらうことができました。
人事評価基準の運用:KPIに即した評価へ
これだけの変化が起きたわけなので、当然ながら人事評価の基準も変えていく必要がありました。
従来の営業では、「売上達成率」を評価するという単純な評価基準でした。しかしながら売上目標の妥当性が低く、形骸化した評価になっていました。
それが次のように変化していきました。
- 売上目標が、ドライバーKPIに基づいた高い精度で決められるため、妥当性が高まった
- 売上達成率だけではなく、KPI達成率というプロセスも評価され、「売上未達でも評価され、昇進する」というケースも生まれた
- KPIに合わせて採用基準を見直し、研修も整備したことで、入社後の人材パフォーマンスも飛躍的に向上した
こうなると、ほとんど別の組織に生まれ変わったという感覚です。
これらの変化により、成長の土台が固まりました。私が営業から抜けた後も、非常に優秀な方に引き継いでいただき、当時以上の生産性向上を実現し続けていただいています。
営業改革におけるドライバーKPIの設計:まとめ
前回をふくめ、ここまでの話を整理すると次の流れになります。
1.現状の把握と言語化を進める
2.良い点と悪い点を整理し、まずやることを決める
3.“60点”の戦略とデータで走り出す
4.徹底的に現状を疑い、“違和感”を見つけ出す
5.データに基づいて、「良い顧客」「良い行動」を見極める
6.各組織の“ドライバーKPI”を決めて運用する
7.KPIに合わせ、組織と人事評価制度を変革する
一連の流れは、いわゆる「セールスイネーブルメント」という言葉とは根本的に異なっており、それ以前の「イネーブルな状態を定義する」という取り組みといえるかと思います。
私自身、この時点まで営業企画をやったことはなかったのですが、ひとつのモデルケースをつくれたかと思います。それを可能にしたのは、まさに“ドライバーKPI”の考え方に基づいて組織を変えていったからだと考えています。