本記事は『インサイドセールス 実践の教科書 立ち上げから組織づくり、事業成長まで』の「第3章 立ち上げ前に考えておきたいこと」から一部を抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
インサイドセールスの3つの形態
インサイドセールスには次の3つの形態があります。
- SDR
- BDR
- オンラインセールス
自社に問い合わせをしてきた見込み顧客に対しアプローチするインバウンド型のSDR(Sales Development Representative)、自社がターゲットとして選定した見込み顧客に対しアプローチするアウトバウンド型のBDR(Business Development Representative)、受注までを非対面で完結するオンラインセール スです(図1)。
自社に最適なインサイドセールスの形態を選ぶためには、自社のターゲットと、そのターゲットに適したアプローチ方法を正確に見極める必要があります。マーケティング戦略を作成する過程で、自社のターゲットやカスタマージャーニーなどが見えてくると、どの形態のインサイドセールスに取り組めばよいのかはおのずと見えてくるでしょう。
一般的に不特定多数のリードを獲得して数多くの商談につなげたい場合はSDR、狙うべき企業や業種が明確に絞られている場合はBDRが有効だ といわれます。また、士業やコンサルタント、商社などの中間プレイヤーをはさまないと接点が持てないような業種をターゲットとする場合も、ま ずはその中間プレイヤーに対してアプローチする必要があるため、BDRで初回の接点をつくるのが有効です。
カスタマーインサイドセールス
図1にはありませんが、SDRとBDRだけでは売上目標に到達できない場合や、アップセル・クロスセルの促進に注力するために、既存顧客専任のインサイドセールスを置いている企業もあります。
筆者はこれをカスタマーインサイドセールスとよんでいます。現状では、大規模にインサイドセールスを展開している組織での動きにとどまっていますが、こうした新しいインサイドセールスの概念も、今後は増えてくる可能性があります。
インサイドセールスのそれぞれの形態についてくわしく見ていきましょう。
SDRは最も一般的な形態
SDRとはマーケティング部門が獲得したリードに対して、メールや電話などでアプローチして商談を創出する形態です。すでに接点のある見込み顧客にアプローチする形態であることから「反響型」「インバウンド型」ともよばれます。
日本においてインサイドセールスに取り組む企業の多くが、SDRを採用しており、最も一般的な形態といってよいでしょう。
SDRの3つのミッション
SDRのミッションは3つあります。1つ目は自社の製品・サービスで見込み顧客が課題を解決できるかを見極めること。2つ目は見込み顧客の属 性や検討意欲によって適切なアプローチを行うこと。そして3つ目は有効商談を創出することです(図2)。
有効商談の定義は会社によって異なりますが、一般的にはフィールドセールスが実際に商談した結果、受注につながる見込みがあると認定できた商談のことを指します。
見込み顧客から課題をヒアリングでき、その課題が自社の製品・サービスで解決できる場合、そのリードは有効商談につながる可能性が高いといえます。
また、過去に獲得したリードや失注したリードを掘り起こし、再度アプローチして商談を創出することもSDRの重要な役割です。
BDRはあらゆる手段で顧客との接点を開拓する
BDRとはリードの有無にかかわらず、自社の製品・サービスと相性のよい業界や企業を選定し、メールや電話、手紙などでアプローチして商談を創出する形態です。顧客との接点構築から行うため、「開拓型」「アウトバウンド型」ともよばれます。
BDRのミッションは、ターゲット顧客を定義してペルソナを作成し、戦略的なシナリオを立ててアプローチすることです(図)。
手段はメールや電話、手紙だけにかぎりません。つながりのある知人や既存顧客からの紹介など、あらゆる手段を用いて顧客との接点を開拓するのが特徴です。
ABMを進めたい企業に向いている
BDRは狙うべき企業や業種が明確で絞られている場合に有効なため、ABM(Account Based Marketing:アカウント・ベースド・マーケティング)を進めたい企業におすすめです。
ABMとはターゲットアカウント(企業)を個社の単位まで定め、アカウントからのLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)最大化を目指すときに最適な戦略のことです。不特定多数から契約に至る企業を絞り込んでいくLBM(Lead Based Marketing:リード・ベースド・マーケティング)とは、アプローチが異なります(図4)。
ABMは、既存顧客・新規顧客を問わず、営業部門とマーケティング部門を中心とした各部門連携のもとで、 ターゲットアカウントごとにカスタマイズされた、マーケティングおよび営業活動を行うのが特徴です。
ABMにおいてインサイドセールスは、ターゲットアカウントの開拓方法を計画したアカウントプランに沿って、アプローチを行います。まずは、ターゲットアカウントに対して新規の接点をつくることが求められるため、BDRが適しているのです。
SDRとBDRの違い
インサイドセールスを導入する場合、はじめはSDRに取り組み、一定の成果を上げたあとにBDRに着手するというパターンが多いです。その背景にはインサイドセールスがSaaS企業を中心に導入が広がってきたという歴史があります。
SaaSプロダクトでは、まず中小企業をターゲットとし、事業拡大とともに大企業へアプローチを行うという成長路線がありました。ターゲットが中小企業である場合はSDR、大企業である場合はBDR と相性がよいとされているために、そのパターンが一般的になったと考えられます。
ただ、一概にターゲットが中小企業だからSDR、大企業だからBDRという決め方は正しくありません。SDRとBDRのそれぞれの特徴をふまえて、自社に適しているほうを選ぶようにしましょう(図5)。
立ち上げからSDRとBDRの両方に着手する場合もある
近年では、大企業向けの製品・サービスを開発し、はじめから大企業をターゲットに事業を展開する企業も増えています。その場合、インサイドセールスは立ち上げ段階からSDR とBDR の両方に着手することが多くなります。
なお本書では、立ち上げ期にSDRからスタートし、組織の拡大とともにBDRに取り組むパターンを想定し、説明していきます。とくに言及がないかぎりは、SDRのインサイドセールスについての説明だととらえてください。
オンラインセールスは商談および契約の締結までを担当する
オンラインセールスは、リードに対しアプローチするところから、メールや電話、Web商談ツールを活用し、商談および契約の締結までを担います。商談をフィールドセールスへ引き継ぐことなく、商談化の条件や人員配置、予算などを決められることから、SDRやBDRとは違い、他部門との連携コストが低く、少人数でも導入できる点がメリットとして挙げられます。
ただし、オンラインセールスはすべての営業活動を訪問なしで行うことが基本なので、見込み顧客との信頼関係を構築するまでに時間がかかることが多く、高単価の製品・サービスには向いていません。
オンラインセールスと相性がよい製品・サービスには、低単価でリードタイムが短いものや、複雑な説明が不要で提供価値がわかりやすいもの、有形で一目で特長がわかるものが挙げられます。
ターゲットがオンラインで商談を完結することに慣れている業種である場合や少数精鋭の企業組織・営業組織を目指している場合などはオンラインセールスの立ち上げを検討するとよいでしょう。
責任者にはどのような人が最適か
インサイドセールス部門の責任者となる「1人目」には、どのような人が最適なのでしょうか。
筆者の経験では、自ら商談を行い受注までを経験したことがある人、営業経験が豊富なトップパフォーマーをアサインできれば理想的です。
インサイドセールスは、形や範囲は違えど、営業であることに変わりはありません。見込み顧客の課題をヒアリングし、最適なタイミングで、自社の製品・サービスの価値を伝えるためには、自社や顧客に対する理解が不可欠です。
さらに立ち上げ初期は、フィールドセールスと商談化の基準や運用ルールを決めたり、商談の進捗について確認したりするため、フィールドセールスの業務についても深い理解が必要になります。自らフィールドセールスで実績を持っている人であれば、業務についての理解があるのはもちろんのこと、商談を引き渡す際にどのようなシナリオで商談を進めていくべきかを伝えることができるので、フィールドセールスと対等な議論がしやすいでしょう。
加えて、今後インサイドセールスのメンバーが増えることを想定すると、マネジメントや業務プロセス構築の経験があるとよりスムーズです。
もし、社内にインサイドセールスの責任者に相応しい人材がいない場合は、外部のコンサルタントや支援会社に依頼することを検討しましょう。
フィールドセールスに本音をいえているか
「インサイドセールスとフィールドセールスは対等に議論できなければならない」――インサイドセールス組織でマネジメントを行う多くの方が、そう語っています。
筆者の1人である才流の名生(みょう)と、SmartHRの大谷氏、遠座氏の対談記事でも、インサイドセールスとフィールドセールスの関係性について、同様の見解が示されています。
インサイドセールスとフィールドセールスの関係を深めることを意識的に行い、定量的な成果につながったという人事労務ソフトを展開するSmartHRの事例を記事から一部抜粋して紹介します(引用元の表記に則り、インサイドセールスをIS、フィールドセールスをFSと記載)。
名生 ISとFSとの連携を深めることで、商談化率や受注数という定量的な成果が現れてきたと思います。定性的な成果や手応えも教えてください。
遠座 ISとFSが持つ情報には、それぞれ特徴と違いがあります。FSは、お客さまとの日々の商談を通して、とても密度の濃い情報を持っていますし、ISはSFAの情報やデスクトップリサーチで集めた情報と、お客さまの基本情報を幅広く把握している。それぞれ得意領域があって、お互いの情報をミーティングや打ち合わせなどで定期的にぶつけ合うことで、点と点がつながるんです。
「前に〇〇さんから電話で聞いた話ですが」とISからFSに伝えた情報が、次に会うべき人を探すうえでの足がかりになることもありますし、ISもFSから聞いた情報をもとに、新しい仮説が立てられる。その仮説を持って、カウンターパートの方に自信を持ってお話しできるようになったことは、連携を通じて生まれた、形には現れない副産物だと感じます。
名生 「この情報を伝えよう」「こんなフィードバックがありましたよ」という、小さな日々のコミュニケーションから、信頼が生まれていきますね。
大谷 信頼って、何かひとつ関われば生まれるものではないんですよね。共通の目標を持ち、日々の仕事だけでなく、たとえば飲み会で仲良くなることも必要。全方位で関係性をつくらなければ、信頼は育めないと思います。実は、FSのマネージャーと私たちの間で、意識して「ISとFS、仲のよい雰囲気にしていこう」と取り組んできたのが、両部署の連携における大きな転換点だと考えています。
たとえば、共通の目標を追うことはもちろん、お互いのKPIの達成を喜ぶ雰囲気をつくったり、FSとISで進捗を確認するSlackのチャネルができたら、「盛り上げていきましょう」と根回しをしたり。マネジメント層が率先して盛り上がり、お互いの距離が近づくように働きかけてきたことは大きいです。
名生 「チーム同士の協力体制を築くには、マネジメント層が率先して動くことが大事だ」とよくいわれます。まさに、大谷さんたちが目指す理想に向かって、チームの雰囲気をつくっていたんですね。
大谷 同時に、ISに対しては「FSと対等な立場でコミュニケーションをしよう」と何度もいい続けてきました。他社の事例を伺っていても、ISはFSからいわれっぱなしになりがちで、力関係が生まれてしまう傾向が高いそうなんです。そのような関係にならないように、いいたいことはいおうという意識づくりをしていました。
たとえば、ISが「有効商談になる」と確信をもってトスアップしたのに、FSが商談を進めなかったり、パイプライン金額が想定より下がったりしたときは、「どうしてですか」「何があったんですか」とIS側からきちんと主張するようにしました。「組織は、前向きなケンカをしていくと、成熟してワンチームになる」という考えがあります。コンフリクトが起きないままでは、上辺だけの仲の良さになってしまいますから。
※出典:才流「目指すは、商談をデザインするインサイドセールス。FSとの連携が進むSmartHR・エンタープライズISの現在地」