ビジネスオーナーが直面している3つの課題
サークレイスは、Salesforceの業務支援サービスを提供する会社として始まり、DXに関するコンサルティングやICTを活用した業務改善に関するコンサルティング、SaaS製品の開発・販売などを行っている。田代氏は、Salesforce案件と2023年12月に提供を開始した「マーケティング・セールスイネーブルメント マネージドサービス『ConsulTech(コンサルテック)』」中心に、顧客のマーケティング・セールス課題の解決に取り組んできた。
まず田代氏は、多くの企業が近年直面しているマーケティング・セールスの課題を3つ挙げた。
ひとつめはノウハウ不足だ。「営業チームが市場や顧客に関する知識不足に直面し、顧客のニーズを理解するための専門知識が不足している状況に陥っています」と、田代氏は現況を分析する。
ふたつめは人材不足。適切なスキルセットを持った営業メンバーの不足が、業務の遂行に影響を及ぼしている。
3つめが業務の複雑化だ。「市場の競争の激化により、営業業務の複雑さが増しています。多様な製品やサービスに対応するためのスキルとリソースが、慢性的に逼迫した状態にあります」と田代氏は言う。
実際、「ここ数年売上が低迷している」「一部の売上に依存している」「リテンション率が低い」といった課題を抱えている営業組織にとって「The Model」は魅力的だ。従来型の営業組織が持つ課題を解決するためにThe Modelを導入することが、昨今の業務改革のトレンドと言えるだろう。
しかし、The Modelを導入してもマーケティング・セールスの課題を解決できず、成果につながらないこともある。具体的には、The Modelを導入しようとする際に、組織全体の連携やプロセス全体のマネジメントリソース不足の課題に直面し、成果を最大化するに至っていないケースだ。
多くの企業がこのような課題に対処できていない原因を探るため、改めてThe Modelの定義や導入目的について理解を深めていこう。The Model導入の目的は「顧客の成功のため」
そもそもThe Modelは、Salesforceで実践されている営業プロセスのひとつで、「ユーザーの成功とともに売上を拡大する仕組み」と定義されている。従来はひとりの営業担当者が行っていた、見込み顧客の発掘から育成、商談成約後のアフターフォローといった業務を、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの各部門で分業し連携することで、一貫した顧客対応をとれる体制の構築を目指している。
The Modelは、分業による業務効率化のほかに、顧客獲得の機会や利益の増加、現行営業プロセスの弱点の把握、トラブルへの素早い対応、柔軟な人員体制の構築、再アプローチの可視化なども実現可能にする。これらの利点が複合的に組み合わさり、The Modelは近年多くの企業で注目を集めているというわけだ。
ここで田代氏は「The Model型の営業プロセスを導入するそもそもの目的は、企業がメリットを享受するためではなく、顧客の成功のためであることを覚えておく必要がある」と強調する。この点を理解して運用しなければ、各部門が自身の成果を出すことだけを目的として動いてしまい、顧客の成功につながらず、継続受注が増えないという本末転倒な結果になりかねない。
田代氏は、The Model導入が失敗するケースについて次のように語る。
「The Modelを実現して成果を挙げるためには、プロセスとマネジメントが密接に結びつき、各部門が適切なタイミングでそれぞれの役割を果たし、一貫してつながっている必要があります。しかし、多くの場合、各人材のスキルが不足して十分に役割を果たしているとは言えないケースがほとんどです」(田代氏)
では、代表的な失敗要因とは何なのだろうか。さらに具体的に見ていこう。
The Model型組織の構築を阻む「4つの要因」とは?
サークレイスがSalesforceの導入支援やDXコンサルティングサービスを提供する際、顧客に共通する次の4つの事項があるという。
- 無駄なコストの発生
マーケティングからセールスまでのプロセスにおいて、成功につながる具体的な施策の分析や把握が不足しており、効果的な活動に対する適切なコストとリソースの投資が妨げられている。
- スキル不足
人材の不足やノウハウの共有が不足していることから、個人のスキルに依存する傾向が強まっており、組織全体のスキルセットの偏りが生じている。
- 生産性の低下
営業マネージャーが営業のマイクロマネジメントに追われ、戦略的な業務に十分な時間を割けていない状況に陥っている。同時に顧客対応にも多くの時間をとられているため、結果としてチームのパフォーマンス向上に必要な活動に対する支援が不足してしまう。
- マネジメント不足
管理者の不足、または管理が行われていても、適切なタイミングでのプロセスの可視化が行われておらず、具体的なアクションを促すマネジメントができていない。
上記を踏まえて、The Model型組織構築の失敗例には「分業できなかった場合」と「分業はできたが成果が出なかった場合」の2パターンがあると田代氏は言う。
「分業できなかった場合」のよくあるパターンは、営業部門が情報を開示せず、ブラックボックス化したり、新規開拓に取り組まなかったり、未受注の顧客の掘り起こしを行なわなかったりするケースだ。これは無駄なコストやスキル不足に分類される。
一方で「分業はできたが成果が出なかった場合」は、多くが営業プロセス全体を見通せる人が不在となっているケースだ。全体を見る人がいなければ、顧客の適切なタイミングでのアプローチや最適な対応方法がつかめない。これは、生産性の低下やマネジメント不足に起因する。
The Model型組織を構築するには、各部門がどこまでやるのが最適か、自社の状況やターゲット層、商材などに合わせて適切に設定していく必要がある。この役割分担ができていない場合も、成果につなげることは難しいだろう。
「分業はできたのに成果が出ない原因として、圧倒的に多いのが“戦略不足”です」と田代氏は続ける。では、The Modelの導入を成功に導くためにはどのような改革プロセスと戦略が必要なのか。次頁で4つのステップを見ていこう。
The Modelの導入効果を高める営業組織改革プロセス
STEP1:全体プロセスの可視化と監視
戦略のプロセスにおいては、顧客に対してどのようなアプローチをしていくのかという戦略的セグメンテーションと、データを可視化するためのSFA/CRMのようなプラットフォームの構築が必要だ。
また、業務プロセスにおいては、顧客起点でどのような営業が必要になるかを考えオペレーションを構築し、PDCAサイクルを回していくことが重要になる。
上の図は、営業プロセスを可視化し、組織全体の共有と改善を実現する方法の一例だ。営業担当者ごとの計画と実績を評価し、パイプラインの規模を比較する。そして、営業活動の共有と展開も同時に行う。さらにプロセスの評価や進捗状況をダッシュボード上でグラフ化し、情報を一元的に把握する環境を整える。
また、担当する案件の進捗不足をヘルススコアで把握し、その原因を特定し対策を講じることで、営業活動を効果的に進めることができる。
そして、可視化されたデータは迅速な意思決定とチーム全体の効率向上に寄与するため、営業組織全体のパフォーマンス向上につなげることが可能になる。
STEP2:ノウハウ共有によるスキル向上
The Model型組織を機能させるうえで重要なのは、「人」「テクノロジー」「オペレーション」の3つをバランスよくそろえることだ。ひとつでも欠けるとThe Model型の組織は機能しなくなる。
このプロセスの中核となるのは、トレーニングと教育プログラムの評価だ。従業員のスキル向上は組織全体の成長に直結するため、システムの導入だけで満足するのではなく、人材育成を積極的に行うことが重要となる。たとえば、成功事例や手法をプラットフォームやミーティングを通じて共有することは、知識の伝達とスキルの向上に有効だ。
とくに重要なのは、過去の商談のノウハウを暗黙知として放置せず、体系的に記録し活用することが挙げられる。成功や失敗に含まれる貴重な経験を活かすことで、無駄を減らし効率を高めることが可能だ。経験豊富な社員が過去に使用した提案書や、顧客訪問時のヒアリングメモなどを一元化しデータベース化することで、新人社員もこれらの情報を活用することが可能になり、商談の効率化と受注率の向上が期待できる。
さらに、進化したAIやRPAも、スキル向上と競争力強化のための重要なツールとなる。トップセールスに依存するリスクを減らし、新人が迅速に戦力化され、組織全体の強化につながるだろう。
STEP3:バックアップ体制の構築
バックアップ体制の構築は、生産性向上のカギだ。生産性の低い状況を改善するには、マネージャーがマイクロマネジメントに陥らないようにタスクの優先順位を明確にし、本来の戦略的業務に専念できるようなルールの策定が必要だ。また、部下の営業活動を効果的にフォローアップし、部下が不調な場合にサポートを提供できるような環境整備を進めていく必要がある。
上の図は、ナレッジベースの整備による、バックアップ体制構築の例である。分業によって全体を見る人がいなくなると、顧客アプローチの最適なタイミングや方法を見失い、成果が出ない事態に陥りやすくなる。マネージャーが俯瞰的な立場に立ち、いかに業務を減らすことができるかは、生産性向上のために重要だ。営業事務などを担当する人員を配置し、リソースを分散させることも有効な手段と言える。
STEP4:営業プロセスを、誰にでも把握できるように明文化
営業プロセスを誰にでも把握できるようにするためには、「明確な管理指標の設定」が欠かせない。チームの目標と成果を測るための明確な管理指標の設定を定義することで、マネージャーとチームメンバーは共通の目標に向かい、方向性が明確化される。
次に取り組むべきが「定期的なパフォーマンスレビュー」だ。定期的に成果を確認し、必要に応じて調整を行うことで、問題を早期に発見し、適切な対策を講じることが可能になる。
上の図は、商談のフェーズ定義を明確化した一例だ。フィールドセールスの領域では、とくに商談プロセスの管理が重要となるが、すべての案件を人力で追跡し適切なアドバイスを提供することには限界がある。ここで重要となるのが、事前にプロセスを明文化し、その後のデータ整理、レポーティング、活動状況の分析を自動化することだ。
これらの4つのステップをThe Model型のプロセスに当てはめたのが次の図だ。
顧客が商品・サービスを認知してから、実際の購入決定に至るまでの一連のプロセスをサポートする基盤としてThe Model型の仕組みを構築し、データドリブンに意思決定できる環境を構築することが、The Model導入の効果を最大化するカギとなるだろう。
最後に田代氏は同社が提供する「ConsulTech」サービスを紹介。田代氏によれば、当該サービスでは、クライアント企業のマーケティングから営業、カスタマーサクセスに至るまでのビジネスプロセスを深く理解し、業務効率を向上させ、ビジネスオーナーが求める成果の最大化を伴走支援するという。
同サービスでは業務プロセスとデータの可視化により、ボトルネックの把握を可能とする。さらに、KPIの定義、構築支援などを支援することでクライアント企業のビジネス成果を最大化するサポートを実施する。また、データに基づいた意思決定を可能にするプラットフォーム構築支援だけでなく、マーケティングの戦略と実行支援も包括している。
記事冒頭で紹介した「『The Model』の導入に際し、組織全体の連携やプロセス全体のマネジメントリソースの不足などの課題に直面している組織」へのアンサーと言えるだろう。
田代氏は「サークレイスは『成果の創出に向けた伴走』『AIなどのテクノロジー活用による生産性向上・業務効率化』『データに基づいた成果創出の仕組み構築』という3本の柱で、皆さまのマーケティング・セールスの成果向上にコミットいたします。組織改革に関する悩みがありましたら、ぜひ弊社にお声がけください」と述べ、セッションを締め括った。