命を削るような努力で「営業とマーケの壁」を乗り越えた
──社内外における変化を受けて、仕組みと考え方の変化が必要になったのですね。そのための基盤としてSalesforceを選んだ理由をうかがえますか。
喜多 国内外、多くの拠点がすでにSalesforceを活用しており、グローバルスタンダードなプラットフォームに業務を合わせていく「Fit to Standard」の方針でスピーディに標準化を進めたかったことがひとつ。また、商談管理とMAのプロセス連携をより高度にしたかったのです。検討した結果、Salesforceが最適だと結論づけました。2022年より、Sales CloudとAccount Engagement(旧 Pardot)の連携とグローバルの標準化に向け、より本格的に動き出しています。
──活用や定着をどう進めていったのかおうかがいしていきます。まずは矢岡さんに営業とマーケティングのワンプラットフォーム化をどう進めたのか、うかがいたいです。
矢岡 定着化の本質は、全体を見渡したときに、どこにテコを入れればより活用が進むかを見極めることにあり、そのためにデータ項目の統一や可視化が必要です。現在定義されているセールスプロセスでは、マーケティングの次にデジタルセールスやフィールドセールスがお客様と接点を持っていきます。自分たちだけで完結するのではなく、お客様接点の起点として、使いたくなるデータを蓄積するための標準化を心がけました。
具体的には、グローバルのリードマネジメントに関する調査を行いました。オブジェクトの使い方がバラバラなケースもあり、活動の可視化や比較・分析が難しい状態だったため、グローバルで統一した「リードオブジェクト」を採用することに決めたのです。
もうひとつ、私の人生でもっとも難しく、命を削るような努力で取り組んだのが、マーケティングと営業の壁を乗り越えていくこと。難しいことの連続でしたが、富士通にとっても逃してはいけない千載一遇のチャンスだと、踏ん張りました。CMOの山本さん、そして喜多さんや友廣さんとひざを突き合わせて、ときにはぷんすかしながら(笑)、本当の意味で両者がつながるプロセスをつくったこと、これは定着における重要な布石でした。
システムを入れるだけでは成果は上がりません。オペレーションはもちろん、関わる人たちが納得しないとプロセスは回り始めないからです。経営者の視点、外部からの視点、デジタルセールスの視点、さまざまな視点をまとめるのは難しいですが、あるべき姿をとらえ、現場が何を行うべきか見極めることを大切にしました。
──先ほど、デジタルセールスはマーケティングとセールスをつなぐ「かすがい」でもあったとお話されていました。友廣さんの工夫についてもうかがえますか。
友廣 両部門で最初に行ったことは10年近く前から使っていたセールスステージの再定義でした。マーケティングが担うリード管理と、営業が担う商談管理、いわゆるパイプラインマネジメントをグローバルで再定義、統一したことは非常に重要なことでした。
一般的に見て日本企業におけるマーケティングの地位はまだとても低いと思っています。ウェブをつくる人、イベントやアウェアネスをやっている人……。「売上をつくる営業が神様で、マーケティングは意見が言いづらい」そんな文化がある企業も少なくないはずです。我々はある意味、日本企業におけるそんなカルチャーも壊したかった。両者が連携してつくったプロセスがきちんと成果につながると見せていくことを大切にしています。
デジタルセールスが果たす役割は「クオリファイ」です。マーケティングが接点をつくった見込み顧客とのコミュニケーションを通じて、顧客と営業、双方にとって意味のある商談機会をつくっていく。今後はさらに、顧客との関係を維持・向上していく後半のフェーズ、いわゆるカスタマーサクセスでより一層活躍するシーンも出てくると考えています。
まだまだ「案件は営業の持ち物だ」という議論もあります。一方で、会社全体で顧客と向き合っていくプロセスが生まれた今、そこからの解放が必要ですし、文化を変えるための働きもデジタルセールスの使命だと考えています。
たとえばこれまでの富士通では、営業は情シス部門の方々を訪問し、足で稼ぐ活動を行っていたわけです。しかし、DX企業へと進化している現在は、さまざまな部門がお客様となり得ます。新しい窓口の方とつながる部分をマーケティングとデジタルセールスが担うなど、営業組織に直接的なメリットを感じてもらえるような施策に取り組んでいます。