44歳で決意したプロレス業界へのチャレンジ
大張 新日本プロレスリングで代表取締役を務めております、大張です。まずは私が在籍する新日本プロレスリング(以下、新日本プロレス)についてご説明します。当社は1972年にアントニオ猪木氏によって設立され、2022年には50周年を迎えます。私は10代目社長にあたりますが、創業時から掲げる「ストロングスタイル」という言葉を大切にしながら、会場・店舗をともなう「オンサイト事業」と、EC・コンテンツを活用した「オフサイト事業」の二本柱で事業を運営しています。皆さんが思い浮かべる新日本プロレスの試合は、国内外合わせて年間約200大会(配信を含む)を開催しております。
さて、ここからは、私の話をします。私は広島市生まれで、今年47歳になりました。幼少期からプロレスラーへの憧れがあり、新日本プロレスへの入社はそうした憧れを諦めきれずに選んだ道でした。当然ながら「プロレス部」というのは身近になかったため学生時代はバレーボール部に所属していたのですが、身長188㎝と体格に恵まれたことも手伝って、大学時代のバレーボールでの活動をきっかけにNTTに入社し、私の社会人としてのキャリアはスタートしています。
入社当初はバレーボールの実業団と並行して社内でシステムエンジニアとして働いていました。システムエンジニア時代に翔泳社さんの『MCSE教科書 Windows NT Server 4.0 in the Enterprise』を片手に資格の勉強していたのは記憶に新しいです。今回SalesZineさんに登壇のお話をいただいた際に、ご縁を感じました。
NTTの実業団では、目標であった国体で準優勝を達成し、念願のV1リーグに昇格したのち、20代半ばで引退して社業に専念する道を選びました。その当時はIT業界が現在以上に上り調子であったため、いちビジネスパーソンとして成長をし続けたい思いから、引退後は大学院受験を経て海外留学先でMBAを取得しました。帰国後はNTT(持株会社)でグループ経営戦略やM&A、サービス開発、法人営業などを経験したのち、福島県で営業支店長として法人営業組織をマネジメントしていました。この段階で私は44歳です。40代の半ばまで、プロレスとはまったくと言って良いほど縁のない環境で働いていたことがおわかりいただけたかと思います。
では、なぜ私が44歳にしてIT業界からプロレス業界に飛び込んだのか。大きなキャリア転換を決意したきっかけのひとつに、「娘からの言葉」があります。あるとき、娘の進路相談に乗っていた際に「どういう大人になったら良いのだろう」「私は〇〇ができないから、△△は難しいかもしれない」と投げかけられました。それに対して、私が伝えたのは「未来のほうが長いのだから、まずは“好きなこと”を目指してみようよ」ということ。この言葉が、自分自身にも返ってきたんです。
「そういえば俺、プロレスラーになりたかったな」
「今からプロレスラーにはなれないけど、プロレスの仕事ならできるかもしれない」
「自分の夢に正直になってみよう」
そう思い至り、かつての夢であったプロレスの仕事にチャレンジするべく、ブシロードの門を叩き、2018年12月に入社しました。翌年2019年にブシロード傘下の新日本プロレスに経営企画部長として異動し、アメリカ法人の設立と代表を経て、2020年に新日本プロレスの社長に就任し現在に至ります。
ストラテジーは「戦いの本質」を示す言葉である
バレーボールの実業団選手としてキャリアをスタートし、その後幼少期からの夢を叶えて新日本プロレスの社長に就任した大張氏。セッションの中では、選手時代に得た学びがビジネスパーソンとしての糧になっている、と「バレーボールとビジネス」の類似性を自身の経験に基づいて解説する場面も。
大張 ひとつめは「人を活かすことの重要性」です。強いチームはセッター(トスを上げる役割のプレイヤー)は目立ちません。その分、得点を取るスパイカーが目立つのです。バレーボールのチームでセッターとしてチームに属していた自分は、幼少期から無意識のうちに「人を活かすこと」の重要性が身についていたのかもしれません。
ふたつめは「世の中は理不尽と偶然だらけであること」。どんなに上手な選手でも、どんなにスポーツのルールがシンプルでも、そしてどれだけ完璧に動作を行ったとしても必ずミスは生まれます。同時に、良い悪いにかかわらず、たくさんの「偶然」も発生します。日々の「理不尽」や「偶然」は当然のもとしてとらえ、過度に一喜一憂しない、という学びは今も昔もキャリアで活きています。
3つめは「戦略のルーツ・本質はスポーツも経営も一緒であること」です。「ストラテジー」という言葉は軍事用語でもあり、「戦いの本質」を示す言葉でもあります。バレーボールに限らずあらゆるスポーツに当てはまりますが、「戦略が重要」という点はビジネス現場との大きな共通項のひとつであると考えています。