営業の強みを活かす「横断合意」された仕組み
──本連載では「横断合意×現場実行力」というエンタープライズ開拓の方程式を紐解いていきます。この方程式は「相互関係」が鍵を握るとうかがいました。「相互関係」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。
並木 「相互関係」とは、属人性と仕組みの循環を示します。AI時代になっても、営業が持つ属人的なスキルが強みとなることは変わりません。しかしそれだけで勝負しようとすると、行き着く先は、高度なスキルを持つ人材を高い給与を提示して採用しようとする「人材獲得合戦」です。だからこそ、組織として成果を生み出すための「横断合意された仕組み」が重要となるのです。
村瀬 「横断合意」は、エンタープライズ攻略における重要な概念です。エンタープライズ開拓は、顧客の社内に限らず、自社の関係者も増えますね。マーケティングやインサイドセールス、営業、カスタマーサクセス、ときには開発チームや経営層までさまざまな立場のメンバーが関わる中で、わずかな認識のズレや優先順位の違いが、案件の停滞や機会損失につながるケースは少なくありません。
もちろん顧客にとっても、部門によって違うことを言われたら不安になってしまうでしょう。エンタープライズ開拓を成功させるには、顧客へどのような価値を届けるのか、どのような順序で何を進めるのか、顧客に関わる全員が同じストーリーを共有する必要があります。つまり「横断合意」とは、社内の全員が共通の言葉と認識を持つことであり、その認識を具体的な業務プロセスや評価基準として「型」に落とし込んだものが「仕組み」です。いわば、全員が同じ方向に向かって進んでいくための「地図」だと言えるでしょう。
並木 「エンタープライズ開拓は『型』化できない」と言われがちですし、たしかにすべてのノウハウを再現可能な形に整えるのは難しいでしょう。しかし、それでも仕組み化しようとする試みは諦めずに続けるべきです。それを営業1人ひとりが現場で発見した顧客理解や生み出したノウハウ、身につけたスキルと循環させることで、営業活動はさらに質の高いものになります。
株式会社ナレッジワーク 専門役員 Principal セールスイネーブルメント 並木 康貴氏
2009年、横浜国立大学教育人間科学部卒業。事業会社での営業職を経て、2017年、デロイトトーマツグループ入社。人材/組織開発コンサルティング職に従事。2019年、株式会社セールスフォース・ジャパン入社。イネーブルメント組織を牽引。2023年、株式会社ナレッジワーク入社。コンサルティング責任者。グロービス経営大学院MBA修了。
桐原 村瀬と並木が言うとおり、顧客とのコミュニケーションは最終的に「人と人」ですし、とくに多くの組織やキーパーソンがそれぞれの考えに基づいて行動するエンタープライズ開拓において、再現性を高めるのは非常に難しいですね。
しかしこれほど変化の激しい時代、ひとりの営業が抱えられることは非常に少ない。アカウントプランの作成やSFAの導入といった営業現場のアクティビティを一定水準に保つ「営業支援」と、SFAや稟議などルールメイクされた「営業管理」の両軸で構築された仕組みがなければ、営業が多くの顧客と相対することはできません。
そしてその仕組みは、関わる全部門が合意したストーリーに基づいているからこそ、現場で真に機能するのです。

